ゼノンは背広だからいいが、私は行くとなったら愕然とした。服が無い。頭を悩ませていた私はアゼルに相談した。予想はしていたが「身の危険を感じたら逃げるんだよ」と言われたときはこう、ゼノンって……と思わずにはいられなかった。
本当、に。
行きましょうか、と宮殿で言われた時には顔に熱が集まった。かっこいい。素直にそう思った。黙っていれば文句なしだと思う。
彼についていく形で入った劇場に入る。あちこちにはドレスアップした女性や男性がいて、些か緊張してしまう。
人が多いのでゼノンと逸れないようについていく。が、待って、という前に彼の服を僅かに掴む「すっ」
「すみませんっ。別に他意はなくて」
「ふふふ」
「な、何で笑うんですか」
「いやあ。役得だなあと」
掴んだ手を慌てて離すが、彼は「迷子になりますよ」と意地悪げに手を差し延べる。くそう。腹立つ。悔しい。
全くその通りだ。
ノーリッシュブルグに関してはまったくわからないから、ゼノンに頼るしかなく。そっと握られた手のまま、階段を下る。通路側の席は良い席だった。前には遠すぎず近すぎずの舞台。奥に私を、通路側にはゼノンが座る。


