とある神官の話





 白を基とした神官服をまとった神官があちこちを行き来していた。もうすぐある夜の祈りの準備が裏ではなされているだろう。
 王族が使っていた建物ゆえに、隠し扉などがあるとかなんとか。現地の神官がそう話してくれた。

 床を叩く己の靴音を耳にしながら、あちこちに術をかけ直していく。これはゼノンから教わったものだ。強い思いであればあるほど効力は増す。軽い手順で済むのが、異能持ちの中でも"魔術師"だからこそ。
 広い建物内で念入りにしていくのは、疲労もでる。術は体力を削っていくのだ。




「ふぅ」

「フィンデル神官、大丈夫ですか」

「ええ。大丈夫です」





 地元の神官らにもすっかり名前を覚えられてしまった。多分。原因はいくつかある。一つ、ハイネン。もう一つ、ゼノン。他にもあるだろうが、その二つが主な原因であろう。
 人の良さそうな男の神官が「無理はしないで下さいね」という。

 あちこちに術をかける。最終日ゆえに頑張らねば、と己を奮い立たせて今。

 開始まで一時間を切っていた。