とある神官の話




「あらあら、あらら」



 女はコップを置き、物音がしたほうへと足を進めた。床には己の足跡が続く「意外としぶとかったり?」
 女はリビングを見た。そこには転がる人。飼い犬。愉快でならない!と女は嗤う。その一人がまだ呼吸をし、床を這っていたのだ。
 それは男だ。腹部からは出血。すぐ傍にはその妻なのだろう。エプロン姿の女性が腰から半分に切断され、臓器が覗いていた。



「な、何故だ!」

「殺したかって?何も殺さなくてもよかったんじゃないかって?」



 女は己がしたことを思い出す。
 悲しさよりも憎しみか勝った。ああどうして?どうして私というものがありながら?知ったのは不倫だったということ。どの口で愛を囁いたのか。どの顔で私を抱いていたのか!
 さ迷うように歩いた街で、誰かが囁いた。"堕ちてしまえ"と。



 女はそれの手を掴んだ。
 復讐したかった。女は、女を裏切ったものに。




「貴方が悪いのよ」

「ひっ……」




 目には絶望。女はそれを見て笑う。愉快愉快。全て壊れてしまえばいい。
 女は先程やったように、刃を握る。男は逃げようと床を這う。逃げられない逃がさない、そんな言葉はまるで歌のように紡がれる。

 淡い燐光。
 女の手には、何かの切れ端のようなものが握られていた。
 首が跳ねられ、床に転がる。

 静かだった。三日後に控えた祭事も、忌ま忌ましく思えた。




 ――――なら壊してしまえば。




 女は笑った。

 背後には、燃えるような赤い髪の男が笑っていた。





  * * *