とある神官の話



 出血が多く、ハイネンは荒い呼吸を繰り返す。彼の場合、どうしたらよいのか。
 あれこれ考えても意味がない、と思っていた時だった。強く引かれた腕はそのまま反転し、背中に雪。真上には血化粧をしたハイネンの顔。違う。

 鮮血のような色の瞳。覗く牙。

 あまりに出血すると、禁断症状のようになると聞いたことがある。血液を定期的に摂取しなければ死ぬと。

 真上にいるハイネンは動かない。眉を潜めるように、そしてぐらりと倒れ込む「!」




 重い体を横へと押し、彼を見る。意識は無かった。このままでは危険だろう。なら。

 私は迷う。
 傷つけるのは怖い。痛いから。傷が出来るから。痛い。痛いのは「馬鹿ね」



「!?」

「よそ見するのはどうかと思うわ」



 あ、と私は振り返った。いや、振り返えられなかった。首に当てられた刃。ゆっくり振り向けば、美女。冬だというのに薄着でそこにいた。
 ごくり、と唾を飲む。
 立ち上がった私に「意外に強いのね」と言う美女―――リリエフは、指名手配犯。"あの"アガレスと同じ。



「貴方たちは何もわかってない」

「何を」

「わからない癖に、捕まえるのに必死なのね」




 何を、という前に声。「ヒィ!」と怯えた様子の民間人が腰を抜かし、雪の上に転がる。
 邪魔ね、というリリエフに私は彼女の手首ごと刃を掴む。短剣を選んだのは何故なのかはわからない。けど、やってやろう。大きな爆発でも何でも起こせば通報者が出る。味方が来る。
 リリエフの幻術が解けたのかはわからない。レスティ達の姿が見えないからだ。彼らは、どうなったのか。