「だから、私は忘れてなどやりませんよ」
ドアな向こうで「ハイネン、まだか?」というランジットの声がした。「あらあらランジットさんの、せっかちさん」と返したら無言。
私は多くの別れを見ました。
多くの死を、または生を見ました。
――――アガレス。
貴方は私に「忘れろ」と言いましたが、私は貴方を忘れてなんかやりません。貴方が何をしようとして、何をするのか。
「おい、列車に遅れるぞ」
「わかってますよ。あ、ランジット、荷物よろしく」
ドアを開けてきたランジットに、私はそういう。
私は私で、やってやろう。
* * *
「ようやく帰れますね」
ミノアの町が遠ざかってゆく。荷物とともにお土産なんかも増え、孤児院の子供達の顔を浮かばせる。きっと喜んでくれるだろう。
ヤヒアというイレギュラーが登場したおかげで、一日出発が遅れたのだが。まあ一日くらいはいいだろう。向かいに座るハイネンは新聞を読み、隣に座るランジットは寝不足なのか眠っていた。
「そういえば、貴方はゼノンの恋人なんですか」
「……は?」
「ですからこいび―――」
「違います!断じて違います!」


