「この前、キースに"あいつ"のことを聞かれた」
「あいつとは?」
「アガレスのことだ」
「ほう。また思い出したように出てきますね」
紅茶を用意し、エドゥアールへ。エドガーもまた一息つくように椅子に腰掛ける。久しぶりに聞いたその名前を、懐かしみながら。
何と答えたのか。エドガーの問いに教皇は「何も」とだけ答えた。何も?
二十年ほど前に姿を消した神官。アガレス・リッヒィンデル。多数の神官を殺害し。指名手配されている。
当時かなりの混乱だったことをエドガーは覚えている。アガレスが殺害したのは厄介なことに、当時の高位神官、または枢機卿だったのだ。
当時すでに高位神官であったエドガーが、その事件後に枢機卿に推されたのはそういった混乱もあったのだが。教皇もまた何かを思い出すように紅茶に口をつけた。
「まあ。禁書の件もある。それにキースは会ったことがあるのだろう」
「……大変でしたね。あの時は」
退職者やらなにやら増え、大混乱状態。前教皇の死去。ここ二十年は怒濤のように過ぎていった。


