とある神官の話





「……ヤヒア?」





 "それ"は黒い翼に見えた。だが、それが地面に足をつくとすぐ、外套に戻る。街灯だけでもわかるのは、赤。燃えるような赤だ。黒い外套にかかる髪が風に揺れる。
 ランジットが剣に手をかけるが、抜けない。一方、"ヤヒア"と声を出したハイネンは何故、と小さくもらす。

 あ、と私は声を出していた。回復してよろめきながらも立ち上がる。二人の間から、数メートル先に降り立った姿を再び捉えた。




「おいおい、まじかよ」




 ランジットの顔に焦りと僅かな恐怖。私もまた立ち上がったまでが精一杯である「流石だね」





「だてに長生きしてるだけのことはあるね」

「お褒めの言葉をありがとう」




 風が止んだ。直接吹き付けてくる風がないというのに、何だかわしづかみされたような気分だ。あれは――――。そう言った私に小声でランジットが説明した。

 数々の禁術を使用した男。
 指名手配犯。