「おおおおおお俺の時代到来したんじゃね!?」


ドタドタとうるさい音を立てて階段を駆け下りて来たのは我が弟、流馬。
…顔が自重しきれていない。どうせ話のネタは大事な大事な彼女、小夏ちゃんだ。


「…ヨカッタナーオメデトウ。」

「なんでカタコトなんだよ!」

「顔が自重しきれてないから。」

「自重なんかできるか!小夏が泊まりに来いって、明日!」

「ソーデスカ、ヨカッタナ。」

「うわ、全然思ってねぇ!」

「…頼むから消え失せろ。」

「やっべーやっべまじ…小夏…クリスマスやべぇ…。」


死ねとは言わずに消え失せろと言ってやった兄に感謝すべきだこいつは。
ふんふんと鼻歌が自然に零れてくる程度には幸せそうな弟を睨みつけつつ、でもそんなことしても俺のクリスマスは何も変わらないことに絶望する。


「…いいな、流馬は。」


泊まりがとか、そういうことじゃなくて。
ただ単純に大好きな人と同じ時間を過ごせるってことが。


「はぁー…ってか来年は俺が卒論じゃん。クリスマスってなにそれ。全然おいしくない。」


こうなったら明日は絶対に家から出ない。出たらさらに絶望することは分かっている。何なら部屋からだって出ない。どうせ両親はデートだし(うちの両親はあの年になっても毎年クリスマスは二人でどこかに出かけて、しかもどこかに泊まりやがる)、流馬の顔だって見たくない。


…完全に引きこもりだ、24日は。
家のチャイムが鳴ろうが絶対出ない。誰とも顔なんか合わせない。