「ままー。何お話してるの?」

「アンジェルは可愛いねって話してたの」

「ほんとー?」

嬉しそうにアンジェルが笑うと、やっと開放されたフェリクスがリュックの膝に飛び乗った。
子猫の頃よりも身体が大きくなったフェリクスも、少しだけ年を取っていた。

「お前はいいベビーシッターだなぁ…いや…」

「フェリクスは、幸せを呼ぶ猫なんだもんね」

レアが言うと、まるで返事をする様にフェリクスがにゃあと鳴いた。
リュックは優しくフェリクスの背中を撫でてやると、アンジェルがフェリクスをじっと見つめる。

「しあわせのねこちゃん!ままとぱぱもしあわせ?」

「うん、幸せだよ」

「わたしも!」

アンジェルが嬉しそうに顔を綻ばせる。
レアはアンジェルの頭を優しく撫でると、リュックを見つめた。

世界が灰色に見えていた頃、こうして二人で家族になれることなんて考えもしなかった。
それは、どこか夢物語の様な―…現実にはなり得ないことだと思っていたのだ。

それが今、こうして目の前にある。

それは時に痛みを伴うこともあるけれど、とても尊くて幸せなこと。
レアの世界は、一人の頃では想像も付かなかった様な驚きと幸せに満ちている。

「ねぇ、リュック。来週は田舎に帰らない?パパとママが、たまにはリュックも帰っておいでって」

「え、本当?嬉しいなぁ」

「フェリクスも一緒に行こうね」

「お出かけ??」

アンジェルがきょとんとした顔で首を傾げる。
レアはにこりと笑いながら頷いた。

「来週、おじいちゃんのお家に行こうねって話してたのよ」

「行きたい!ブリジットにも会える?」

「会えるよ」

「うれしい!」

アンジェルの頭の中は、すっかり来週の予定でいっぱいになってしまったようだった。
二人はそんな愛娘の姿を見ながら、また幸せそうに微笑んだ。