レアが「彼」―…今の勤め先の上司と不倫をしていて、本気になってしまったこと。
「彼」に別れを告げられたこと。
街を出ようと思っていたら、フェリクスを拾ったこと。
あの夏の日、まだ「彼」が好きだったこと。


フェリクスは、ずっとレアの手を繋いだまま話を聞いていてくれた。


「話したら、少しすっきりした」

泣きすぎて腫れてしまった瞼を冷やしながら、レアが呟いた。
フェリクスはまだレアの手を握ったまま、黙って聞いていた。


「私ね、知らなかったの。あの人に、奥さんがいたって。知らなくて、でも、奥さんがいるってわかってもとめられなくて。バカみたいだよね」

今度は自然に笑えた。

「バカは、あの男だよ。レアはこんなに可愛いのに。奥さんいたのに内緒にしてたなんて」

フェリクスは怒っているようで、そっとレアの頭を撫でた。


「でも、レアはもう大丈夫そうかな…もう、灰色に見えない?」

「うん、大丈夫。ありがとう、フェリクス」

手を繋いだまま、離さないでいてくれればいいのに、と。
レアは思った。


この手を、離さないでいてくれればいいのに―…と。





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