巫女と王子と精霊の本




『ハミュル…。私は…私にしか出来ないことをやっと見つけたの』


音羽はゆっくりと城の中へと入っていく。
そして、地下へと続く階段を降りていく。



そして、開けた空間にあるのは、ドル・ディーチェの大樹だった。
人よりも何倍も大きい大樹がそこにはある。





『……ドル・ディーチェの大樹よ、私の声に応えて』



その声に応えるように、大樹がざわめく。
そして、大樹の中心が光りだした。




『覚悟ハ…出来テイルカ……』


その言葉に音羽は静かに頷いた。



これは、大樹の声?
大樹が喋るの!?



『………私の魂とこの世界を繋げて、永遠に大樹がダクトフェーナ一族の命を糧にせずに済むというのなら、私は喜んで捧げます。どうせ、捨てるはずだった命です』


『ソウカ……スマナイ……。私モ、ダクトフェーナ一族ヲコレ以上苦シメタクハナカッタ。ソノ為二オ前ノ傷ツイタ心にツケ込み、私ハ…オ前ヲ犠牲トシテ選ビ連レテキテシマッタ…』




音羽は……ハミュルの代わりに死のうとしてるんだ。



『私は、この世界にこれて良かった。あなたのおかげです。初めて、生きていることに幸せを感じました。だから、私の死は無駄じゃありません。私は、あの人の生きる世界になって、あの人を見守っていきたい』


『……魂ト世界ガ繋ガルニハ何百年モノ歳月ガカカル。ソノ間ニコノ地ニ生キルモノは大樹ニ喰ワレ、命ヲ吸イ取ラレテシマウダロウ…』


『それを、私の世界を管理する力で一時的に別の世界へと転送する。物語の人物たちは他世界では認識されない。時間のながれもなく、留まるだけ。だから、私と世界が繋がった時に呼び戻せば誰も死ぬことはないわ。ただ……』




この世界も物語の一つ?
じゃあ音羽も、私と同じ……綴る者…?


『境界を越える反動で記憶に問題が起こるかも……』

『シカタナイ…命ガアルニコシタコトハナイ』

『そう……ね…』




音羽は小さく笑い、大樹に触れた。



『じゃあ、お願いね………』

『了承シタ…』


―シュルシュルッ



ツルが音羽の体に絡みつき、大樹の根本に押し付ける。
体がどんどん大樹の中に沈んでいく。




『ハミュル、必ず……あなたを迎えに行く…から……』



そして音羽は大樹の中へと消えていった。