巫女と王子と精霊の本





――――――――――――――――――
――――――――――
――――――――



「ここがハミュルのお城……?」

「あぁ、ダクトフェーナ城だよ」



ドル・ディーチェの大樹に侵される前はもっと美しい城であったのだとわかる。
その造りは私の世界でいう中世のヨーロッパにあるようなお城だった。



「こっちだよ」



ハミュルの案内で白の中を進んでいく。
ふと、見覚えのある場所を見つけた。




「ここ…………」



あの夢と同じ、音羽とハミュルが幸せそうに話し合っていた城の庭。
そこには枯れ果てたハミュルの花がある。




「鈴奈、どうかしたのか?」



先を歩いていたエルシスは心配してか、私のところまで戻ってきてくれた。




「エルシス………。ここね、夢で見た場所と同じ…」


「そうなのか?ハミュル、ここに見覚えは?」



ハミュルは庭に足を踏み入れ、周りを見渡す。
その瞬間ー…



『私ね、あなたと出会えて良かった。本当に…幸せだわ』



また音羽の声が聞こえ、色あせていた庭にに色が戻る。
これは…またハミュルの記憶を見ているんだ。




『音羽…?どうしたんだい、そんな顔をして』



ハミュルは悲しげに笑う音羽の頬を優しく撫でる。
あの時見た夢と同じものだ。



『あなたに話していない事があるの』



『話していないこと?』


ハミュルは庭に腰を下ろす。
音羽はそんなハミュルに合わせ、隣に座った。



『私、こことは全く違う、日本…じゃなくて、世界から来たの』



………え………?
日本、今日本って言った!!?


この人、私と同じ世界から来たってこと……?



『そう…薄々は気づいてはいたよ。君がこの世界の人間じゃないことは…』




ハミュルは寂しげに笑う。
そんなハミュルの手を音羽は握った。



『私、本当は死ぬはずだった。でも、死ぬ瞬間にね…声が聞こえたの。君にしか出来ない事があるって。私にしか出来ないことがあるなら、私の存在に意味があるなら、やりとげたいって願ったら、すぐに光が見えて、私はこの世界に来ていた』


『……君は、死にたかったの?』



悲しそうに尋ねるハミュルに音羽は曖昧に笑った。




『私は、あなたと出会って、恋をして…。本来ならば手に入れることが出来ない幸せを知る事が出来たの。ありがとう、ハミュル』


『お礼を言いたいのは私の方だよ。この世界に捧げられる運命に押しつぶされそうだった。ずっと孤独だった私に、音羽は愛をくれた。誰もくれなかった温かい感情をくれたんだから…。ありがとう、音羽』



ハミュルは音羽を強く抱きしめた。



『ううん、私はあなたにお礼を言われるような人間じゃないの』

『どうして、そう思うんだい?』



ハミュルは体を離し、音羽の顔を見つめた。
音羽は涙を流し、ハミュルほ頬を撫でる。



『あなたを、また一人にしてしまう…』

『え………?』




ハミュルは目を見開いた。
その瞬間、音羽の手から光が放たれる。



『音羽、何を……………』

『ハミュル、ごめんなさい………ごめんなさい……』




音羽はただ泣きながら謝る。
光はどんどん強くなっていった。


『あなたを……死なせたくないの……。この世界の犠牲になんてならなくていい…』

『音羽!?』



音羽は笑みを浮かべた。
安心、不安…喜び、悲しみの相容れない思いが混じったような、複雑な思いを表した笑みを…


 

『愛してる、だから信じて。私は……あなたも、この世界も守るから…』


『音羽、君は何を……』



光は、ハミュルの体を包むように強くなっていく。



『必ず……あなたを迎えに行く。この世界であなたが幸せに生きていくために…』


『…やめるんだ、音羽ー!!』


―パァァァァッ


そして光はハミュルを何処かへと消し去った。
そこには、音羽だけが残る。