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エルシスが去った広間には私と鈴君、そして……フェルの三人。



「鈴君………」

「鈴奈……こんな所に…いていいの…か?あいつの傍に…いたいん……だろう?」



鈴君は苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながら、私を気遣う。




「私は、鈴君の傍にいるよ。もう鈴君を一人にしたくない。鈴君の居場所は私なんだから…」




鈴君の手を両手で包み込む。
冷たい…。少しでも私の温もりが鈴君に伝わればいいのに……




「それにね、私達には守りたいものがあるから…」



私がエルシスを好きでも、エルシスが私を好きでも、私達は別々の道を歩まなければならない。
でも、きっと目的地は同じ。
大好きな人達を守り、世界を守ること。




「…俺の力にのみ込まれるぞ……?」


戸惑うような、不安そうな鈴君に私は笑いかける。



たとえ私が死んだとしても、一人じゃない…。
鈴君が命を賭けてアルサティアを守るというのなら、私も命を賭ける。


私が心から望んでる、エルシスや私の大切な人達が生きるこの世界の未来を繋げたい。



「私、私の一生なんてなんのへんてつもないつまらない人生を送るんだって思ってた」




誰かの役にたったり、なにより私自身が何かを守りたい、やりとげたいって思うことなんてきっと無い、そう思ってた…



「でもね、フェルが私をこの世界に連れてきてくれたから、私は誰かの為に強くなりたいと思えたし、忘れてしまっていた大切なもう一人の私にも会えた…」


「…鈴奈……」


鈴君は弱々しくはあるが笑みを浮かべる。




ずっと傍にいてくれた、私は一人じゃなかった事を鈴君と出会って知った。



『僕は、そんなつもりで君をこの世界に落としたんじゃないけど』


「それでも、私はここに来てたくさんの宝物が出来たの。その中でも一番の宝物はね……」



エルシスの顔が頭に浮かぶ。
そう、私に強さと愛を教えてくれた人……




「この命を賭けても守りたい、それくらい愛した人がいるの。だから、私は後悔なんてこれっぽっちもしない!」



これから死ぬっていうのに、恐怖を感じない。不思議なくらいに心は穏やかだった。



『…こんな幸せなだけの世界になんの価値があるの?ただの夢物語りだよ。こんな、作られた幸せに…価値なんてある?』



フェルはわからないと言ったように首を傾げる。



……本当に、作られた幸せなのかな?


確かに、物語の世界でしかない。
それでも私は彼らに出会って、それぞれに抱く思いを知って………


確かにここに存在しているんだと思った。



「この世界も、私達の世界も…同じ。初めは作り物だったかもしれない、
それでもね、そこに生きる人達は今、自分の意志で未来を変えようとしてる。
もう、作り物なんかじゃないよ」


「…わからないな、どうして君はそこまでするの?」




フェルは私の顔の前でフワフワと浮いている。



「僕が気まぐれに作った世界なのに。僕が綴った物語の中では一番ボツ作なのに」


「ふふっ、なら残念。私はこの作品が今まで読んだ本の中で一番大好きなんだけどな。
感じ方は人それぞれ、誰かにとっては価値がなく思えても、誰かにとっては、人生を
変えちゃうくらい価値があるものになるんだよ」




私にとってはこの物語がそうだった。