「…消え……てしまえ……」


鈴君………


虚ろな瞳がエルシスを捕える。
エルシスは鈴君に剣を向ける。



「…消え……ろ…」


―ゴワッ


「はぁぁっ!!」


―ダァァンッ!!!



二つの力がぶつかり合う。
爆風に吹き飛ばされそうになる。



「…っ…うっ…」



こんな……悲しい気持ちになるのは、私の大切な人たちが傷つけ合わなくちゃいけないから。
私には剣も、魔法も使えない。
でも……別の方法で戦うことは出来る。



私は本を開く。





―王子は泉の精霊の力を借りて魔王に立ち向かいました。
魔王は次第に王子の力に押されてきます。
そして、ついに王子は魔王の心を取り戻したのでした。



「未来は変わってる……!!」



大丈夫……
私達はきっと未来を守れる!!



「鈴君!!思い出して!!」

「!!」


鈴君は驚いたように私を見る。
瞳は虚ろだが、確かに声は届いている。



「私達はもう誰かを憎むんじゃなくて、幸せになるんだよ!!だから、もう一度耳を傾けて!!惑わされないで!!」



もう、誰かを傷つけて、自分も傷つくなんて悲しい思い……
あなたにはさせたくない!!



「……鈴……奈……」




鈴君は虚ろな瞳から涙を流して手を伸ばしていた。
それを見て胸が苦しくなる。




「っ…鈴君っ……」



涙が頬を伝う。
私も鈴君に手を伸ばした。




「鈴奈…俺を信じろ…。大丈夫だ!!」


エルシスは安心させるように笑みを私に向ける。



「エルシス……」



エルシス、どうか鈴君を助けて…
鈴君が今度こそ幸せになれるように…



「エルシス、鈴君を助けて!!」

「うぉぉおぁぁっ!!」


―ダァァァンッ!!!!



エルシスの力が、鈴君の闇を吹き飛ばし、フェルへと斬りかかる。



―ザシュッ!!


『うわぁっ!』




フェルの持っていた本、黒の結末を綴る本が切り裂かれる。
本は地面におちると、黒い炎を放ち燃えていく。


『…へぇ……。まさか、本当に君の勝ちになっちゃうとはね……』



フェルはよわよわと飛びなから私を見る。


「……フェル………」


フェルはどうしてこんなこと………


「終わりだな、フェル」

『…あーぁ、そうみたいだねぇ』



エルシスに剣先を向けられていながら、フェルは何でもないように笑う。


………なんだろう……
なんか、フェルの様子がおかしい。



嫌な……予感がする……




手元の本を開き未来を確認する。




―魔王に勝った王子でしたか、魔王の溢れた魔力は世界に溢れ、魔物を生み人々を襲いました。
王子は滅んだ世界を見て絶望し、自ら命を絶ってしまいました。



「……うそ……。まさか、フェル!!」



私はフェルを睨む。
フェルはニタリと笑った。



『あはは!!急がないと、みんな死んじゃうよ?』

「どういう事だ……?」



エルシスは怪訝そうにフェルを見る。



「…エルシス、今すぐ城の外へ!!魔物がみんなをっ!!」


それだけでエルシスは理解したのか、エルシスは息を呑む。



「お願い!!」


―パァァァッ!!


本が光を放つ。
そして白の結末を綴りだす。



《白の結末》


―世界に散らばった魔物を倒すため、王子は城の外へと出ます。
王子は城の外の魔物を倒し、仲間を救いました。
しかし、世界に散らばった魔物を倒すには王子一人では不可能で絶望しかけたとき、城に残っていた魔王は自らの命を使い、魔物を消し去りました。
王子は戦いの傷痕の残るアルサティアを立て直す為王となり、アルサティアを平和へと導きました。




「…鈴君の命を……」




そんな、そんな事出来ないよ………
私は…………誰も犠牲にしたくない。
綺麗事って言われるかもしれないけど、私は………




「…鈴奈………」




何故か鈴君は私に笑いかける。
それは、何かを悟ったような顔だった。