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私に白の結末を綴る本を渡した精霊、フェル。フェルは今私の世界にいるはず…



なのにどうして………?



『やぁ、鈴奈。久しぶりだね!』


この場にそぐわないくらいの明るさでフェルは私に笑顔を向ける。



『にしても駄目だよー!僕は物語を白の結末に導いてといったばずだよ?』

「…フェル……」


『白の結末は本来どうなるはずだったんだっけ?』



フェルの言葉にこれからの結末を思い出す。



「エルシスと魔王…鈴君が戦って、エルシスが勝つ。でもエルシスは怪我をして……それをラミュルナ王女が癒しの力で癒し、二人は幸せに暮らす……」





本来の物語はこうしてハッピーエンドになるはずだった。でも…




『なら魔王は殺さなきゃ。さぁ、エルシス、君も戦ってよ』





フェルから放たれた言葉に耳を疑う。



「なっ……」

「フェル……?何を言ってるの…?」



エルシスも驚きで言葉を失っている。




優しいフェルからは想像出来ない言葉に信じられない気持ちでいっぱいになる。


『何って、僕は変な事を言った?』



不思議そうに首を傾げるフェルに体が震える。



フェルが怖い……
なんでだろう、背中に嫌な汗が伝う。




「なんで?フェルはこの物語を幸せな結末にって……」


『あははっ!僕、そんな事言ったっけ?』




嘘……でしょ……?
何がどうなってるの?






「……鈴奈、俺に黒の結末を綴る本を渡したのはそこの精霊だ…」




鈴君の言葉に耳を疑う。



どうして?フェルがそんなことを…
頭が混乱する。




『あははっ、君は本当に面白い子だったよ!まさか魔王まで懐柔しちゃうなんてさ!』



まるで狂った人形のように笑い続けるフェルに、言葉を失う。




『僕はさー、見たかったんだよ!この世界を憎む魔王と異界の少女の綴る最悪のバッドエンドをさぁ!鈴奈という異分子がこの世界を変えていった!こんな面白い事はないよ!』


「……嘘…でしょ…?私は…この世界をかき乱してたってこと…?」


じゃあ、私がしてきた事っていったい…



『あれ?後悔してるの?前向きな、強い巫女である君が、動揺してる!君のしてきた事は無駄だった、むしろ君が乱した!』


「私……そんなっ……」




そ…んな………。
私はただ、この世界を救いたかっただけなのに…




「ようは、お前が鈴奈を利用し、傷つけたって事か…」





エルシスは私の体を支えるように抱き寄せた。



「…エルシス……」



「鈴奈、お前はお前がしてきた事を後悔するな。鈴奈に救われた人間が何人いると思う?お前が守ってきたものを思い出せ」



私が……守ってきたもの……




思い返せばセキやセレナ、ラミュルナ王女に鈴君、竜王やエクレーネさん…
カイン国、マニル国、ギオウ国の人達の顔が浮かんでくる。




「私がここにきた意味はあった…?私は、何かを救えてたのかな?」



「俺が生きていられたのは、お前のおかげだ。それだけじゃない、俺もどこかで孤独だった」



エルシスは私の頬を左手で撫でる。
その瞳は優しく、愛しいと伝えてくれる。




「王子でいるがために常に強くいなければいけない、誰にも弱い部分をさらけ出すことは許されなかったからな。お前が俺を守ると言ったとき、俺は初めて弱くてもいいのだと心が安らいだんだ…」



「私は……エルシスを支えられてた?私の存在に意味はあった?」


「お前がいなければ、俺は戦えなかった。お前がいたから、俺はこんなにも強く在れたんだろうな…」



エルシス……。
私も、あなたがいたから、こんなにも強くなりたいと思えたんだ…



だから、憎しみにとらわれずにいられた。





「そこの王子の、言う通りだ」


鈴君が私の手をとる。




「お前が来なければ俺はまたこの世界を壊していた。お前が俺を止めたことで、この、世界は救われた…」


「鈴君……」



鈴君の手が震えている。


そうだ、この世界にきたから私は鈴君と出会えた。