巫女と王子と精霊の本







「…魔王!!」


ラミュルナ王女が青年を見て悲鳴に近い声を上げる。



「魔王……?鈴君は?」

「鈴君…か。それは、俺の事だ、鈴奈」




どういう……こと……?
鈴君が魔王で、魔王が……




「鈴…君……?」



「そうだ。俺はお前のいう鈴であり、アルサティアでは、魔王と呼ばれている存在」




……そんな、どういうことなの?
鈴君は私の中にいた、もう一人の人格…そう思ってた。
それがこの世界に来るときに何らかの理由で別々に別れてしまったんじゃないかって……





「俺はな、このアルサティアでは魔王という役職を与えられ、数多の人間の憎しみを一身に受けて生きてきた」



「じゃあ、あなたは……この世界の、物語の登場人物…ってこと?」



「そうだ。俺は元々この世界の人間。勇者、そのような類いの人間が現れ、幾度も倒されては長い眠りにつく…。命が終わるそのとき、俺もまた憎しみを募らせ、復讐を夢にみた。…その繰り返しだった」



鈴君………
魔王は、悲しい存在なのかもしれない。
エルシスがこの世界を救わなければいけないように、鈴君も……




この世界を壊さなければならなかった。




「ある時、夢を見た。それは、小さい子供が、孤独に泣き、震えている夢を」




「それって……」

「鈴奈、お前だった」





鈴君は優しい笑みを浮かべて、私を見つめる。




「誰からも愛されず、孤独に生きていたお前が…。俺の生き写しに思えて哀れに思った」



鈴君も、自分を哀れんで生きてきたのだろうか……



「境界を越え、お前に語りかけると、あの本が媒介になって俺たちを繋げた。憎しみ、孤独という感情でな」






孤独だった私たちをこの本が繋いだんだ。題名もわからない、この白の結末を描く本が…




「鈴君も本をもってるよね?それはどうして?」



「お前と一つだった時間が長かったからか、本も二つにわかれたんだろう。それは心が望む物語を綴る。この世界を憎む気持ちが、黒の結末を綴る本として俺の手に渡った、ただそれだけの事だ」




私の憎む気持ちが………
それじゃあ私は、私の心がこの世界を貶めてたってこと……?



「そんな……私のせいで…」



「鈴奈、共に滅ぼそう。こんな、くだらない世界も、お前を孤独にする世界も…」

「私は…壊したくない!今はもう、恨んでないから、もう私はあの時の子供じゃない。だからあなたも……」



鈴君に手を伸ばした。もうやめてほしい。私と同じ孤独を知っているからこそ、今度は幸せになってほしい。



「まだ遅くない!!エルシス王子はきっとわかってくれる!!だから、一緒に生きよう!!」




泣きたくなる。
ただただ、孤独に苦しむこの人を救いたい。



「まったく、その通りだ!!」



突然声が聞こえたと思った瞬間、目の前を大きな背中が見えた。



「遅くなって悪かった」



漆黒の髪が靡き、大好きな人の声が聞こえる。



「…エルシスっ!!」

「王子か、やはり、あそこで殺しておけばよかった」




鈴君は冷たい瞳でエルシスを見据える。
そのまま、剣を構えた。