巫女と王子と精霊の本



「…ゴホンッ…ん…」


気まずそうに私達から視線を外しながらこちらへと歩いてくる。


「エルシス……」


昨日、拒絶した手前私も目を合わせられない。


「王子、何でのぞき見なんてしてるわけ?」


「グハッ…。の、のぞき見ではない、けして!」

「は?それ、柱の裏からチラチラこっち見てた人間の言う台詞じゃないから」

「うぐっ…」


セキの冷たい瞳にエルシスは先程から擬音語しかしゃべっていない。



「気になるなら堂々と奪いなよね。ヘタレ」

「だれがヘタレだ」

「アンタだよ」



二人の間に火花が散っているように見えるのは私の気のせいだろうか。


というか……



「ふふ………」


私は二人のそのまた後ろに佇む人に恐怖を感じている。


「あ…あ………」


体がガクガクと震え出す。


「ふふふふ…」


ヤバイ…ヤバイ!!
あの笑顔はヤバイ!!


勿論、命の危険があるという意味で。




「?鈴奈、顔色悪いよ?」


セキが私の異変に気づき心配そうな顔をする。


「…あ、鈴奈、体調が優れないのか?」



エルシスが勇気を振り絞ったように私に声をかくけてくれる。


かけてくれたのは嬉しい、そして本来であれば声をかけられて動揺するはずが、今は違う意味で動揺している。


「あ、あ、ああああのねっ!」

「あ、多いね鈴奈」

「あ、ははははっ…」

「なんだ、笑ってるのか?」


セキとエルシスの声すら届かない。


…ヤバイ、すぐに戻るって言ってからだいぶ時間がたってる。

こ、殺される!!
怒られるという次元を越えて殺されるぅ!!



「す、すすすすいませんでしたぁぁっ!!」

「「!!?」」


突然土下座する私に二人が驚く。



「ふふ、巫女様?お戻りが遅いようで」


「はいぃっ!」


背筋を伸ばして鬼…ではなかった、セレナを見上げた。


下手したらこの場に居合わせた二人も殺害されるに違いない。



「あ、あのっ……」

「何か?」

「ひぃぃっ!」


こ、怖いよぉぉっ!!
涙目になりながら悲鳴を上げる。


「あ、セ、セレナか…?」

「や、やぁ!セレナちゃん…」



心なしかエルシスとセキの声が震えている。


この二人は身をもってセレナの恐ろしさを知ってる半面条件反射で恐怖を感じていることだろう。



三人の共通する思いはただ一つ。


―死ぬ!!―



「まず一つ、巫女様?」

「はいぃっ!」

「いつまでほっつき歩いてるんです?」


そ、それは……
すぐ帰るつもりだったけど、セキに色々相談しちゃって…


「そして二つ、セキ様は朝食中に席を立ち、何故ここにいるんです?」

「…あは…」

「笑い事ではありませんので」

「………はい」


セキから余裕という二文字が消える。


「三つ」

「うっ…」


予想してたのか、エルシスが震え始める。


アルサティアの英雄も、セレナの前では生まれたての小鹿のよう。


「朝の会議に参加の予定では?時間に来られないと大臣が探しに来ましたよ?」

「…面目ない…」



あぁっ、今この瞬間にもアルサティアは滅ぶんじゃないかな!?