巫女と王子と精霊の本




「巫女サマ、優しいのは巫女サマの美徳だけど、人間全員が巫女サマみたいに綺麗な心を持ってるわけじゃないんだよ。そいつを信じて痛い目みるのは目に見えてる」



セキが私に言いたい事はわかる。

私が捕まれば世界を危険にさらす。
話し合いたい、出来ればこんな事は止めてほしい。でも…それは私だけで決める事はできない。



「それでも…私達は人間だから、言葉で伝えられるなら伝えたい。武力を使う前に出来る事は言葉を交わす事だと思うから…」



人が言葉を覚えたのには意味があると思う。私は、人と解り合うためだと思うから…





「武力でしか解り合えないこともあるよ。巫女サマはまだ知らないだけさ、人間がどんなに汚くて、簡単に裏切るのかをね」



セキの顔が怖い。
いつものへらへらした感じはなく、なにかを深く憎んでいるようにも見えた。


「…セキ……」



その表情に圧倒されて名前を呼ぶのが精一杯だった。



「解り合うなんて不可能さ。お前は綺麗なものしか知らないんだろうからね。あの方の心にお前の言葉は届かないさ」




セキと魔女の言葉が心に突き刺さる。



なんて重い言葉だろう。
確かに、私は戦争もなく、特別な役職もなくて幸せだったかもしれない。


エルシスみたいな英雄でもなければセキみたいな王子でもない。


でも……背負うものはある。
最近できた巫女という役目。


巫女として短い間だけど沢山の人と接し、動物や精霊、竜といったこの世界に来なければ一生言葉を交わす事がなかった人たちとも言葉を交わした。


伝えられない思いはない。
だって生き物には心がある。