巫女と王子と精霊の本




―チャポンッ


「…あぁ…月が綺麗………」


泉に浸かりながら暗闇に浮き出る月を見上げた。


「エルシス、そこにいる?」


私は泉の近くの木に向かって声をかける。


「あ、あぁ…いるぞ」



木の裏にいるエルシスが返事をしてくれた。


「今日は、月が綺麗だよ!」

「あぁ、そうだな。だがこの美しさが俺には冷たく感じる」

「………え……?」



エルシスの声が悲しげに響いた。


エルシス……?


「今もカイン国、マニル国の民は苦しんでいる。なのに月は無情にも美しく輝き、助けてはくれないだろ」


エルシス……
そうだよね、今この瞬間だってみんなの所へ駆けていきたいはず。


「…でも…月は闇を照らしてくれるよ?」


ただ暗いだけの闇を、たった一人で。


「光がなかったら…人は迷って怖くなって、前に進めない。月だけは私達を照らしていてくれる…」

「……そうか……。お前みたいな考え方もあるんだな…。なんというか、優しいお前らしい」


エルシスが笑った気がした。



「エルシス、大丈夫だよ。きっと大丈夫。だって、エルシスはこの世界を救うんだから。巫女のお墨付きなんだからね!」



エルシスに元気を出してほしくて明るい声を出した。


「はっ、それは頼もしいな」


エルシス……
きっと背負うものが大きすぎて不安なんだよね。


怖い……よね…



「大丈夫、私が傍にいるよ。だから絶対に大丈夫。それでも、不安で苦しくなったら…」


「……苦しく…なったら?」

「胸くらいは貸してあげる!」



…抱きしめてあげる。
あなたには私がいるって何度も囁いてあげるから……




「くくっ……期待している」



だから……笑っていてほしい。
前を向いて、希望を捨てないでほしい。



私はその為にいるんだから………