”キレイ”な愛

今日はもう帰ると言うかと思っていただけに、その返事に涼の肩の辺りに入っていた力が抜けた。

綺樹は自分の返事に、ふうっと静かに微笑する涼を横目で見ていた。

涼は年の割りに、落ち着いた笑い方をする時がある。

人は頼りになりそうだと思って、安心するのかもしれない。

だがそれが育った境遇のせいだろうと思う自分は胸が痛い。

下手に他人の過去など知らないほうがいい。

惑わされる。

涼も知らないほうがいい。

私の過去など。

過去。

自分の中に作った箱の蓋が微動した。

駄目だ、開くな。

綺樹はぎゅっと目を閉じた。