”キレイ”な愛

それが今日の仕事を犠牲にした理由か。

だが、綺樹は湯のみをみつめたままぴくりとも動かない。


「綺樹」


呼んでも耳に入っていないようだ。

凄い集中力だ。

不意に視線が戻った。


「お前が現れる前に候補になっていたのは誰?」


涼はため息をついた。


「従兄弟。
 4つ上かな。
 小さい頃から帝王学を叩き込まれてきた」

「なるほど」

「だけど、面白いことに、その従兄弟が俺の出現を一番喜んでいる。
 継ぎたくないんだってさ。
 人生を犠牲にするような、時間に忙殺される立場になりたくないそうだ。
 ベタぼれの婚約者がいて、彼女との生活を大事にしたいらしい」

「表向きはなんとでも言える。
 そう言っていれば、黒幕の首謀者だと思われないとでも、勘違いしているんじゃないか」


皮肉っぽい表情と口調だった。