おじが来ている事を知っていながら、近づかなかったのは、この質問が出るとわかっていたからだ。


「たぶん。
 ここ何ヶ月か電話をしていないので」


曖昧に笑った。


「日本に戻ってくる気は無いのかな。
 会社の役職に着くのが嫌だったら、病院の勤め先をいくらでも紹介できるのだけどな」


綺樹は止めた方がいいと分かっていても、グラスにまた口をつけた。

医者である父親は、母が死んだギリシャの孤島の家から離れない。

母が日本の全てを捨てて、死に場所として逃げ込んだギリシャの孤島。

青い空と海。

乾いた土。

ふうっと綺樹は島の空気に包まれた気がした。

あの島を出るまでの数年は、どれだけ幸せだったか。

もう決してあの時には戻れない。