バレンタイン当日、直接渡す勇気がない私は、部活が終わってから人がいない頃を見計らって、職員用玄関へ向かう。


チョコレートと『好きです』って書いた手紙をつけ、靴箱に入れることにした。



蒼先生の場所を探していたら、背後から声がした。


「余合、何をしている?」


蒼先生の、声だ。



「いえ…別に…」


あっ!


そう思ったときには遅く、私の手からチョコの箱が滑り落ち、蒼先生の足元に転がっていった。


蒼先生が、箱を拾い上げた。




「余合も坂下先生のファン?

あのヒトの隠れファンっていうの、結構多いんだよねー。

まだいるから、呼んでこようか?」


違うよ、坂下先生じゃないの…。



「もう、いいんです。

返して…ください。」


両手を差し出した私に、蒼先生が言う。


「返さないよ。

手紙のあて先、見ちゃったし。」



回れ右をして逃げようとする私の腕を、蒼先生がつかんだ。


「逃げるな。」



蒼先生は私の首に腕をまわし、完全に逃げられなくしてから手紙を開けた。


目の前で、読まないで…。