4月、私たちは3年生になった。


クラスは持ち上がりのため、関心事といえば担任・副担任が誰かということくらい。


この前の離任式では、坂下先生の名前が呼ばれることがなかったので、期待しながら掲示板を見る。


『坂下HR』に私たちの名前があったのを見て、クラスのみんなが喜んだ。






始業式前に、昨年と同じように坂下先生が講堂への移動を呼びかける。


「今年も担任で嬉しいでーす!」


男子数人が、紅白の紙吹雪を散らしながら言った。


「歓迎していただけるのはありがたいのですが、後片付けはしておいて下さい。」


「はーい。

掃除で、始業式にちょっと遅れまーす。」


「校長先生の長いお話を、聞きたくないための口実ですか?

清掃は、始業式後でも結構です。」


坂下先生は、髪や肩に付いた紙吹雪を払った。



「副担任、ヒントだけでも教えてー!」


「この学校に、あの先生の手綱を持って操ることができる教員は数少ない…とでも言っておきましょうか。」


相当のじゃじゃ馬…とでも、言いたいのかな?




私の席のそばにある教室の後扉から、坂下先生は出て行った。


出て行く際に、独り言のように発した言葉は聞き逃さなかった。



「そう簡単には、手放したりしません。」



間違いなく、蒼先生だと確信した。