*** オレンジ色の有日が差した廊下に、一人分の足音が響く。 私は、左腕につけた腕時計を確認した。 午後4時半。 7時までに家に帰ればいいから、今からなら2時間ちょい練習できる。 「失礼しまーす……」 そっと音楽室のドアをあけてなかに入る。 先生はいないようだ。 よかった……。 やっぱり練習はひとりっきりの空間じゃないと、集中できないからね。 鍵盤のふたを開け、カバーの布を取る。 白と黒の空間。 そこは、私にとってかけがえのない場所なんだ。