「美波さん、おはよーございます!」

「おはよう、春斗」


朝、いつも通りの時間に家を出て、春斗に挨拶をしてバイクに跨がる。

何でもないことなのに、いちいちあの夢のことを思い出して、泣きそうになった。


「美波さん、何かありました?」

そういう日は決まって、春斗がこう聞いてくる。そしてあたしは、必ずこう答えるの。


「ううん、何もないよ」

「そうっすか。何かあったら言ってくださいね」

「うん、ありがと」


希龍くんも葉太も安田さんも春斗も知らないあたしだけの秘密は、あたし1人で抱えるには大きすぎる。

でも言えないのは、きっとみんなが離れていくのが怖いから。

あたしの過去を話すことは、きっともう一生ない。聞かれたって話さない。だってもう、思い出したくないんだもん。


「行きますよ」

「うん」


もっと、強くならないと。