「ほほほほほ本物の…葉山…かい!?」
僕は苦笑する。
「ご心配おかけしました。本物の…僕、です」
「……その言い方…葉山、君は……」
八の字眉。その目に浮かぶのは――
「葉山、気持ちは判るけれど、神崎は…」
同情で。
肯定は出来ない。
誤魔化す必要があった。
遠坂由香は、僕の芹霞さんに対する想いに気づいている。
だけど僕は、それに気づかないフリをしていないといけない。
"私"、として。
「"私"は謝らないといけません。手を上げてしまった芹霞さんと玲様に…」
この想いは、駄目なのだ。
持ってはいけない感情。
殺さねばならない感情。
芹霞さんへの想いは、封印すべきものなのだ。
僕はこんなものは必要がない。
この先、2人と共にあろうとするのなら、そこには"私"以外の存在は必要はなく。
ああ、共には…いられないじゃないか。
何を甘ったれたことを考えている?
玲様に手を上げたという、重大なことをしでかしたことに対して、僕は責任をとらねばならない。
「ボクは、2人を呼んでくるね!!」
消える彼女の姿を見て、僕は数回拳で床を叩いた。
やり場のない心のうち。
責任に対する重さを考えるよりも、どうしても…芹霞さんに対する心が消えて行かなくて。
あの…騒がしい馬鹿蜜柑も、こんな気持ちだったのだろうか。
芹霞さんが欲しいと…積極的に行くと覚悟を決めて、それでも櫂様の補佐に回った馬鹿蜜柑。
芹霞さんの玲様への告白を聞いた上で、それでも櫂様のために心を封印したあいつは。
こんなに、苦しい想いを抱えていたのだろうか。
ああ、僕の体の中から、この想いを作る芹霞さんの記憶が、全て消え失せてくれたら!!
僕は…怖い。
弱くなりそうで怖いんだ。
実際、弱くなっていた。
玲様には裂岩糸は通じなかった。
かつて皇城家において赤銅色の氷皇…周涅がしたように、玲様の力は…僕の武器の威力に勝っていた。
玲様は…恋心故に強くなった。
櫂様も馬鹿蜜柑も、強くなって戻ってくると言うのに。
僕は――。
僕は――?

