あたしには…やけにゆっくりとした動きに見えたんだ。
玲くんは動かない。
桜ちゃんをじっと見つめたまま、玲くんは動かない。
「師匠、動け!!!」
動かない。
それどころか玲くんは――
「玲くん!!?」
目を瞑ったんだ。
「玲くんッッ!!!」
無防備にも見えるその姿を桜ちゃんの前に晒して。
だからあたしは――
「いやああああ、玲くんッッ!!!」
無我夢中で飛び出したんだ。
玲くんを庇おうと。
「芹霞、来るなッッ!!」
玲くんの慌てたような声。
驚いたようにこちらを向く桜ちゃんの顔。
全てが…スローモーションのように見えた。
そして光る糸が…あたしの首に絡んだ。
「芹霞あああああ!!」
「神崎ぃぃぃぃ!!」
首に巻かれた大きな光の輪が…
あたしの首を絞るかのように、小さくなっていく。
ああ…あたしの首、飛ぶのかな…。
玲くんの首が飛ぶより…よっぽどいいや。
……しかし、止まったんだ。
寸前で…多分止まった。
あたしの首に触れるのは――ただの糸。
大きな輪を作ったまま。
「桜ちゃん……?」
桜ちゃんは、泣いていたんだ。
黒い目からぽろぽろと…、いつもの桜ちゃんを思えば…不釣り合いなまでの涙が零れ落ちている。
それは悲しさのようでもあり悔しさのようでもあり。
苦しみのようでもあって。
いつも無表情の桜ちゃんだけど、精神のぎりぎりのところで戦っている――あたしはそう思えたんだ。
桜ちゃんは…まだ"自分"が残っている!!!
だから――。
「桜ちゃん、帰ってきてぇぇぇぇ!!!!!」
力一杯あたしは叫んだ。
無力なあたしは、玲くんのような力もない。
あたしに出来るのは、ただ叫ぶだけだけど。
届け。
届け。
桜ちゃんの心に届け!!!
「桜ちゃんッッッ!!!!」
桜ちゃんの濡れた目が、怯えたように震えた。
そしてその戸惑うような表情が、すぐに残忍な笑いに覆われた時、
「桜ッッッ!!!」
……それは一瞬だった。
桜ちゃんは標的を玲くんに戻して、そして糸で攻撃をしかけたんだ。
あたしは首に糸を巻き付かせたまま…玲くんに突き飛ばされた。

