「ひーちゃん、嘘つきまへん。ほら此処のタグ見て下はれ。『ARES=IOA』とブランド名入ってますやろ? そう言えば、玲はんもお気に入りのブランドのはずやから、櫂はんも知っとり……ええ、翠はん。ひーちゃんは情報屋。何でも情報は入ってきますんや」
胸を反らして得意顔のアホハット。
"ひーちゃん"呼称を固定化し、やけに"フレンドリー"さをアピールしてくる。
今、俺にとっちゃそんなのどうでもいい。
気づいてねえのか?
気づいてそうしてんのか?
俺の隣から…放たれる空気の温度が、絶対零度並。
やべ。
櫂の空気が…変わっている。
嫌悪を超えた…殺気。
「脱げ」
櫂は、恐ろしく低い声で威圧的に言い放つ。
「脱げ~!!!? このクソ寒いのに、脱げ~!!!? 嫌や、風邪ひいたらどないすんねん!!! ひーちゃん寒がりなんや!!!」
「あ~ブルブル」などと、わざとらしく縮こまって体を震わすアホハット。
「お前事情など知らん。速攻脱げ」
うわ…。
「何や、櫂はん。そんな趣味「つべこべ言わず、脱げ!!!」
びりびりびり…。
空気が震えた。
同時に…ココアを飲もうとしていた小猿の手も震えてガタガタだ。
クマは実に興味深そうにこちらを見ている。
このクマ…かなり剛胆なのか。
「櫂はん。ひーちゃんブルブルして熱出してヒーヒーなったら、誰が裏世界連れて行くっちゅうねん。そこのクマは、"ある処"からしか案内できん約束なんや。な、ク~マ?」
「がはははは!!! すまんな『気高き獅子』。裏世界の"初期"は、この情報屋だけが"迷わず"歩ける領域(テリトリー)。俺はあくまで、氷皇の言われた範囲内でしか動けんのだ」
「何で?」
小猿が聞くと、
「大人の事情ってもんがあるんだよ、次男」
答えをぼかしてがははははと笑った。
「ちゅうことねん!!! ひーちゃん熱出して倒れたら、櫂はん…裏世界で迷子にならはるんや。ええのか? 抜け出せず、ずっとずっと迷子。誰にも会えんし、紅皇はんとの"約束"も果たせへん。ホンマにええのか!?」
櫂は無言でアホハットを…射るようにして睨み付けて。
「ホンマにええのか!!!?」
そして――。
自称寒がり情報屋と殺気めいた櫂が妥協したのは…

