そんな光景より、気になるのは睦月の言葉。
"運ばれた"?
煌が?
何で、この話の流れでそう思うんだ?
「これは極秘のことだったからな」
落ち着きを取り戻した夢路の口振りは、煌が此処に来ていたことを否定しているものではない。
「あ?」
煌は口を開けたままの顔を俺に向けてくる。
「俺知らないねえって。初めてだぞ、此処」
「記憶が抜けているようだな、そなたは」
「???」
「暁の狂犬。自意識のないそなたの治療はかなり手を焼いた」
俺は目を細める。
「俺、怪我なんてしてねえぞ? いや…した時もあるけど、俺は此処には…」
「蛆」
夢路が言った。
「蛆に塗(まみ)れたそなたが、なぜ今まで平気で"表"におった?」
「は!!? は…あああああ!!?」
煌が立上がり、声を上げた。
「それから。そなたが此処に来たのは二度目ではない。三度目だ。更に言えば…狂犬は此処で生まれ育っておる。即ちそれが一度目だ」
「はああああ!!!?」
煌は驚いた顔で固まっている。
無論俺の衝撃も強い。
確かに煌の出生は不明だったし、誰も確かめようともしてなかったけれど…、此の世界で生まれていたのか?
「睦月。そなたは1回だけ、この者に会っておるのだ。それは10年以上も前になるか。狂犬が此処を出る前に、そなた…狂犬と言い争い、狂犬の髪を暁に染めたろう。元々狂犬の髪の色は黒だったのだ。紫堂櫂と同じような」
「「えええええ!!!?」」
睦月と煌は同時に声を上げ…
「お前…記憶は全くねえけど、牛女!!! お前が俺の髪をこんなに色にしたのかよ!!!? 俺を安っぽい色に染めたのは、お前か!!!」
「知らない、こんな奴知らないよ私は!!! おばあちゃんあたしは…」
「俺だって知らねえよ、牛女!!! いつから牛になったのかも知らねえけど、俺の今までのコンプレックスは、お前が作ったのかよ!!! 返せよ、俺の黒!!!」
「そんなこと言ったって…あっ…」
「転ぶな…あ、何で俺の上に…」
「何処掴んでるんだい!!!」
「俺をその乳で殺す気か!!?」
煌の上に被さるようにして倒れ込んだ睦月。
窒息死しそうになった煌が、睦月の胸ごと押し上げて叫んで。
そして――。

