煌の声が俺に向けられる。
「なあ櫂。お前のその痣…、桜もついてるそれさ、2ヶ月前の"生ける屍"のものと同じ痣だろう? 今もまた同じ東京でその痣の女達、現われ始めてたよな。意味合いは同じだと思うか?」
2ヶ月前。
放置すれば"生ける屍"となる為に、陽斗が狩っていた…2ヶ月前の"血色の薔薇の痣(ブラッディーローズ)"の少女達。
あの時の痣は、ゲームを通じて呪詛が起因して出来たものだった。
"生ける屍"と化す為の刻印。
「2ヶ月と今の痣の意味は違ったはずだ。確か…」
確か久遠は――…
――蝶を見たという被害者の身体には、必ず共通の"あるもの"がある。
そうだ。
2ヶ月前には"死"と関係していた痣は、今のものは蝶の目撃に留まっている。
今度は不特定多数ではなく、生者の特定の動きに限定されている。
そして――
芹霞は蝶が見えるが、俺と桜は蝶が見えない。
しかし芹霞と同じく蝶が見える玲は、痣はない。
今蔓延(はびこ)る痣の意味と、俺が持つ痣の意味は違うのか?
"生ける屍"は、死した肉体だけが蘇生したものを言う。
しかし俺…芹霞や桜に関しては、完全に直前の記憶も自意識も蘇っている。
途切れた生の終焉に、今の生が完全に繋がり、1つのものとして繋がっている。
それに俺は"蝶が見えない"、"男"だ。
違うのだろうか。
俺に出来たこの痣は…、東京で発生する痣の意味とは。
では、"蝶が見える""女"である芹霞が持つ、痣の意味はどうなのだろう。
ただ、"死"を経由しただけの証で留まるのだろうか。
「痣…なあ。俺…何で首を刎ねてたんだろう…」
煌の顔が、後悔にも似た深い翳りに覆われる。
――黄色い蝶の目撃者は、暁色が血に染めている、そうだ。
"約束の地(カナン)"で、久遠がそう言っていたのを思い出す。
その時、視界がぶるりと震えて。
……睦月の、胸…か。
自己主張烈しいそれは、俺の"男"を刺激するまでには至らない。
異次元の産物のように、不自然とすら思えるんだ。
「赤き薔薇の痣の、首を刎ねていたのかい、お前は」
睦月は驚いた顔をして片手で煌を指差し、もう片手で夢路を揺さぶった。
その胸が夢路の顔を塞ぎ、酸素不足となったらしい夢路を助けに、女の黒装束が丁重に胸をどけている…妙な図。
祖母に危機をもたらした孫娘は、そのことすら気づいていないようで、鼻息荒いままに…、
「おばあちゃん、私知らないよ!! こいつが此処に運ばれたなんて知らないよ!! こんな大男、こんな髪の色の奴を、いくら何でも忘れるはずないだろう?」
浅い呼吸を繰り返して酸素補給を試みている夢路の双肩を、今度は大きくガクガクと揺さぶって。
またもや黒装束が、それを助けている。

