睦月は俺を見て、困ったように言う。
「死を克服した者は此処では英雄だ。覚悟を示せとか言ってたけど、それ以上のことをあんたはしでかしていることになる。私らにとって、これ以上ない最高のことをあんたはしでかしていたんだ。だから皆、どう対応すべきがいいか迷ってるよ。あんたは私達の"死"の意味合いを、真っ向から否定したんだからね。
判ってくれよ、あんたの言葉を素直に聞けない程のことを"表"からされ続けてきたんだから。"表"を拒絶することで保ってきたプライドを覆せってあんたは言ってる。そりゃあ慎重にもなるさ」
「……。ああ、判ってるつもりだ。死を経験したからと言って、無条件で全てを信じて貰えるほどに、此処の者達が抱える確執は生易しいものではないことくらい。
だが、こうは思ってもいいだろうか。ようやく…話し合いのスタートラインに立てたと」
「……へこたれないねえ、あんたも。ま、あんたもあんたの仲間もだけどさ。それが皆に届けばいいねえ」
あくまで他人事で笑う睦月は、暗に言っている。
睦月という存在は例え夢路の孫であっても、皆の統率権も決定権もないのだと。
だから自分を懐柔しようとしても無駄なことだと。
従わせたくば、自分で何とかしろと。
それくらいは承知している。
だからこそ――
百聞は一見にしかず…とはいうけれど、相手に有効のものを呈示したのが、俺自身が創り出したものではないという事実が、無性に悔しくてたまらない。
俺は…まだまだ力不足だ。
俺自身を、俺は認めて貰っているわけではない。
"表"で紫堂の肩書きに守られていたように、此処では赤い薔薇の痣に守られたと思えば、自分の恵まれすぎる境遇に反吐が出て来るけれど。
それでも、迎合の道に向けて…一歩は進んだんだ。
拒絶三昧の場の流れを一気に変えたのは…
「おばあちゃんしっかり!!」
「夢路さま!!」
「ひっ…ひぃ、ひぃっ…」
煌のつけた呼称が何でそんなにツボに嵌るのか判らない、夢路という存在であるには間違いなく。
痣の意味を知っているからこそ、胡桃を投げ付けることで、皆に見せたのだろうと思う。
俺は――
夢路に助けられたんだ。

