シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「ひぃ……違う。紫堂櫂では…なく、む…睦月のことだ」

「は?」


「そなた…睦月のことを、何と呼んだ?」


………。


「牛女?」



「失礼な奴だね!! 私は牛じゃないよッッ!!」

「ひぃっ…ひ…う、うし…はははは、はははははは」


夢路の笑いのツボは…煌のネーミングセンスにあったらしい。



「今更、そこかよ…」


煌は溜息をついて、怒る睦月を無視して、笑い転げる夢路を見ていた。


「いつから笑ってたよ、このこけし…。俺の真剣な告白をスルーしてさ」


ある意味、俺にとってはよかったかもしれない。



夢路のおかげで、いや…夢路を笑わせた煌のおかげで(自覚はないが)、今にも破裂してしまいそうな程に張り詰められていた空気が、弛んだのは確かなこと。


それでも避けずには通れないその道を、緩やかに戻したのもまた煌で。


「なあ…牛女」


煌の中では決定済みの呼称らしい。

その単語に夢路がまた笑い転げていたけれど、それを面白くなさそうに一瞥し、眉間に皺を寄せた煌は、睦月に尋ねた。


「櫂についてる痣、それは"死んだ"人間だけが持つモノなのか?」


恐らく、此の場の中で夢路以外に俺達の話に耳を傾けてくれる可能性があるのは、睦月だろう。

そして実際、煌の呼称に不快さを示しながらも、律儀に答えるだけの寛容さは持ち合わせているようだ。


「ああそうさ。そう…伝えられているよ、此処では」

「つーことは、櫂みたいに痣ついてる奴は、此処にはいねえってことか?」

「勿論さ。皆、ちゃんと生きている。だからこそ皆"死"には敏感で…"死"は特別で象徴なんだ。判るだろう? 今の皆の状況」


確かに、場の空気は微妙に変っている。

今までのような反発というよりも、動揺、戸惑い…そんな"揺れ"を大きく感じる。


此の場の者達が、変らずに"生者"であり続けたというのなら、俺だけが"死"を克服した者となる。

この痣が一度"死んだ"者にだけにつく刻印なのだとすれば、皮肉にも…俺の言う"死"についての言葉に、信憑性が出たというわけか。

誰もなしたことのない偉業を俺がなしたのだと、その前提で芋蔓式に遡り、俺が今まで放った言葉がようやく効果を持ち始めたと…そういうことなんだろうか。


ただ、まだ揺れに留まるざわめきは、受容の態度では決してない。