しかし…1人は緋狭姉のように隻腕で、更にその手の先は指ではなく…大きな刃物が覘いていて。

もう1人は背中に大きなコブのようなものが出来ていて、そこから…何故か鎖鎌がぶら下がっている。


「何だ…こいつら…」


こんな姿でも、人間なんだろう。

鼻から下を布で覆った…頭巾のような装束から、唯一露になっている…殺気のような目だけがぎらぎら光っている。


男(コブ)と女(隻腕)か…。

まあ…目の感じからの判断になるけれど。


「誰よ、お前ら!!」


どんな愚鈍な奴でも、今まで俺達を餌としていた化け物が居たおかしな空間で、何事も無かったかのように普通に人間が殺気飛ばして襲い掛かってきたら、それはおかしいと思うだろう。


人間だと仮定して、の話。

普通であることが、異常さよりもおかしいと感じるのは変な話だけれど。


忍者2人は何も言葉を発せず、そして――


「!!!?」

僅かに口が動いた気がした俺は、慌てて胸倉掴んでいた手を前に引いて2人を地面に倒すと、素早くその背中を肘打ちと掌打をくらわせて、今しがた"飲み込んだ"ものを吐かせる。


「ううっ…」


間一髪…息はある。

口に仕込んでいた毒薬は1回分しかなかったらしい。


しかし…身元を隠すために薬飲んで命絶つなんて、何処の時代の忍者よ。


「殺セ…」


男がぎらついた目を俺に寄越した。

その声は酷くしゃがれている上に、機械の声音にも似た人工的な響きを感じて、寒気が背筋に走った。


こいつら…何者よ…?


「………」


気づけば…櫂が傍に来て、片膝をつくようにして屈んでいた。

そして無表情のまま、男の顔を覆っていた…頭巾のような装束を胸元まで剥ぐと…目を細めた。


「何だよこれは!!!」


思わず声を上げたのは、見ていただけの俺。


鼻はそがれ、口…というものがなかったんだ。

血色に爛れた肉の中に埋めこめられた…おしゃぶりのようなものがあるだけで。


見るも無残な…屍のような姿。

これならまだ老化した屍の顔の方が綺麗に思う。


「ひっ……」


意識を取り戻したらしい小猿が、また気絶した気配がする。


しかし櫂はまるで動じない。

まるで想定していたかのように、苦しげに目を伏せると、


「確かめることとは言え、無礼を許してくれ」


櫂が頭を垂れて謝罪しながら、剥いだばかりの布を元通りに戻した。

2組の目が、櫂を憎悪の対象のように烈しく睥睨している。


「櫂、櫂…どういうことよ!!? 今の何よ!!? お前判るのか!!?」


「発声器…だ」


「は!!!?」


「声帯がやられている。声の代わりに…機械を代用している」


え、この状況だけで…判るのか!!?