「百合絵さん、何かあった?」
「いえ」
「その割には随分動揺しているじゃないか。水臭いよ? 困ったことがあるのなら、一緒に考えたいよ。お願いしていたこと関係?」
「いえ」
「じゃ朱貴に何か言われた?」
「いえ」
「朱貴だね?」
「由香ちゃん…どうして玲くんとの百合絵さんとの会話、進んでいけてると思う? "いえ"しか言ってないよね、百合絵さん」
「師匠みたいな繊細な心の持ち主は、百合絵さんのような微細な心の揺れが判るんだろうよ」
その時僕は…フロント硝子から首都高の案内図が目に入った。
………。
「桜のことは朱貴から聞いた?」
「はい」
何だ…この"違和感"。
まるで人形相手にしているような…。
"人形"。
僕の目は…自然と、肉に埋もれた百合絵さんの小さな目に向いた。
………。
僕は後部座席に戻る。
「あれ、早いね、玲くん」
「原因は判ったのかい?」
僕は2人に耳打ちした。
「荷物纏めて。此処から出られる準備だけはしておいて」
「「は?」」
僕は唇に人差し指をあてて声を鎮めさせた。
「この車は池袋には向かっていない。
逆に向かっている」
この車に乗り込んだ時に見た案内図。
フロント硝子越しに見た案内図。
それは飛ばしたこの車が、どの向きに走行していたのかを示しているもので。
確実に…鎌倉に向かっていたんだ。
即ち、皇城本家がある場所へと。
そして"異変"の決定的な事象がもう1つ。
「百合絵さんは!!?」
「操られているのか!!?」
潜められた声に僕は首を横に振る。
「運転しているのは…百合絵さんじゃない」
僕が助手席から窺い見た百合絵さんの目は――
「"約束の地(カナン)"でも見た人形…」
オッドアイだったんだ。

