「何、これ~!!!!」
翠がキーキーと甲高い声で悲鳴を上げた。
奇異なるは――
瘴気ではあれ程攻撃的な敵意があったのに、この姿からはそれが全く感じない。
感じ取れない、のか。
この未知なる生物に、俺が。
「3本足の方がまだマシだったんじゃねえか? つーか、髪抜ける!!」
橙色の髪の毛をぎゅっと掴んで、硬直しているレイ。
その目は恐怖に見開き、小さい口がワナワナと震えている。
動物だからなのか…判りやすい反応だ。
そんなレイに声を荒げる煌には、まるで動じた様子がない。
「お前、平気なのか? 煌」
すると煌は苦笑いを見せる。
「俺、よくああいう系のDVD見てたから、慣れてるっつーか…」
そう言えば、
――聞いてよ、櫂。煌と緋狭姉ったら、あんなに怖いホラー映画を見て、笑い転げているの!!
よく芹霞が訴えていたっけ。
「恐怖というより、ああいう形態が、何だか懐かしいなってさ…。ほら、俺…基本楽天思考だし」
泰然といいのける煌が、非常に心強い。
未知なる生物の正体が何であるのか不明だ。
触らぬ神に祟り無し…という言葉があるが、相手に敵意がない限り、下手に刺激は禁物だろう。
推し量れない相手であればある程、出来るだけ交戦は回避した方がいい。
俺達がすべきことは、戦うことではなく…出来るだけ早く深層部に行き着くことなんだ。
だから此処は、戦わずして逃げるのが得策。
幸いにも"それ"の動きは緩慢だから、慎重に振る舞いさえすれば、走り抜けることはできるはずだ。
気づけば情報屋もクマも居ない。
元より頼る選択肢はなかったけれど、この世界を見知った者達が姿をくらませる理由が意図的なのであれば、少なからず…これから悪しき事態が訪れることになるだろう。
やはり此処は、不本意ながらも逃走に心砕いた方が賢明だ。
俺はその意を皆に伝えた。
「よし、皆。見た処、あれには敵意はなさそうだ。このまま刺激を与えなければ…」
そんな俺の言葉を遮る、雄々しい声。
「ゴボウ!!! 高邁な精神を持つ僕を見ていろ。僕が殺る!!!」
焦った。
「ま、待て、レイ。下手に刺激を…「特別に見せてやるよ、後輩の為に。僕のゲージはMAX回復!!」
いつもの通り、聞いちゃいない。
「レイ、頼むから俺の言うことを…「奥義…"サンダーボルトアターーーック"」
バリバリバリバリ…。
「何とレイ殿!!! 然れば我も…負けて溜まるか!!!! "雷龍飛翔"!!!」
バリバリバリバリ…。
「奥義!!? 僕の胡桃は!!?」
「はっ!!! め、面目ない。次には必ず!! 今はまずはこの敵を」
ドドーーーン。
地殻が…激震した。

