「玲くん、玲くん!!!!!」
玲くんの声が聞こえてこない。
「玲くん…玲く…うああああん」
この不安。
この痛み。
この恐怖。
吐き出すように、堰を切ったように…あたしは大きな声で泣いた。
無言を貫く電話の相手に向かって。
どうしていいか判らない。
いつも玲くんに甘えてばかりのあたしは、緊急時にどうすれば切り抜けられるのか、自己判断が出来ない。
黄色い蝶が…やけにゆっくりと近付いてきている気がした。
「あああああ…」
壁状の蝶が…あたしの目の位置の高さに密集を始める。
いつも狩られる側の蝶と狩る側の人間が…立場を逆転させた時、蝶が思い浮かべる情とは…心とは、如何なるものか。
"ざまあみろ"
痛む足は、もう動かない。
痛む頭は、もう考えられない。
あたしの手からカバンが落ちた。
痛む頭には人々の絶叫が反響する。
泣きながら力一杯叫んでいる。
やがてそれは…あたしだけの声となり。
言葉にならない悲鳴を聞いた気がして、あたしはガタガタ震えてその場に崩れて座り込んでしまう。
タスケテ。
その中で…更に強く響いてきたのは、低い玲瓏な声。
シニタクナイ。
――俺を…忘れないで…。
「助けて……」
――幸せに……したかった…。
「お願い…助けて…」
――俺の…永遠…。
黄色い蝶が…急降下を始めて襲ってきたその時。
「いやあああああああああ!!!!」
風が走った。
風…。
何故か懐かしく思う風が…
突如吹き込んで、あたしの髪を大きく揺らした。
それは黄色い蝶を――
瞬く間に切り裂いたんだ。
「……!!!!」
あたしははっきりと見た。
黄色い蝶を粉々にしたのは、3本の爪痕。
白銀に光る、風の爪だった。
風の爪痕。
その形状は…クオンが負った傷と同じ。
あたしはぶるりと身震いした。
本能的に悟ったんだ。
蝶を撃退出来る、この特殊な風の爪は――
決して救済の…聖なるものではない。
ああ、これは――
また違う敵が現れたんだ。
だからこんな…悪寒を感じているに違いない。
クオンにですら傷を負わす相手に、あたしが何とかできるのか?
あたしは…切り抜けられるの?

