目で見えることこそ真実。
あたしの頭の中にある惨劇の光景は、過去の恐怖経験から来る妄想に決まっている。
現実を認識しろ!!
恐怖に足を竦ませるな!!
やっとの思いで戻ったロビーフロアには誰もいなかった。
玄関から入る者もいなければ、受付たる事務局にも人が居ない。
消えたのは学生や塾関係者だけじゃない。
玲くんも由香ちゃんも…此処にはいない。
まだ玲くんは由香ちゃんを追いかけているんだろうか。
早く、玲くん達の処に行かなくちゃ!!!
しかし――
「何で開かないの!!!?」
自動ドアが開かないんだ。
隙間に指先を入れて、こじ開けようとしてもびくともしない。
ドンドンと拳で思い切り叩いて見ても、分厚い硝子を前に衝撃も音も吸収されてしまう。
完全に…閉じ込められてしまったんだ。
全身から血の気が引いた時――
「!!! あれは…!!!」
硝子張りの向こう側の世界に、2人の自警団が歩いてくるのが見えた。
神の助け!!!
こうなりゃ更正施設に連れられてもいいから、粛正の名目で直ぐにここから連れだして貰おうと思った。
仲間を沢山呼ぶといい。
そして大勢の力と知恵で、この硝子をぶち壊して欲しい。
よし!!!
自警団が見逃せない程の"悪態"をついてやれ!!
同じ逃げるなら、同じ人間の自警団の手からの方が望みがあるから。
だけどそれは浅はかすぎた考えだったようで。
どんなに手を振って飛び跳ねても、免罪符を捨て去る真似をして中指立ててみても、硝子越し…自警団はあたしに気づくことなく、あたしの前を横切ってしまったんだ。
こんな近くにあたしは居るのに!!!
2人とも…気づかないなんて!!!
あたしは悪夢の舞台から逃げられない。
ああ――
S.S.Aの…再現だ。
今度の舞台の主演者は…あたし1人。
どうしよう。
どうすればいい?
あたしはスカートの裾をぎゅっと握りしめる。
どうする!!!?
――いやあああああ!!!
――逃げろおおおお!!!
耳に聞こえ続ける…姿の見えない者達の悲鳴、絶叫。
それはあたしの恐怖が、過去を再現しているだけにしか過ぎないというのに、妙にリアルで発狂したい心地になる。
「ああ…追いつかれた!!!」
膨れあがった黄色い蝶の大群は目の前に迫っている。
あたしの背には…開かない自動ドア。
しかしある一定距離に来ると、あたしに近付くのをまるで躊躇しているように、それとも見定めようとでもしているのか、攻撃性を示す前後左右の動きではなく、上下だけの動きを見せ始めたんだ。

