その顔は皆一様に虚ろであり、兵隊ゾンビの行進を彷彿したけれど…、しかし身体の動きに何処か落ち着きのなさを感じるのは、自警団の目を恐れてのことのように思えた。


ただ黙って、行進を見ているあたし達の横をすり抜けて、1点の通路に向かうのは…そこにクラスが発表されているのかもしれない。

歓声やざわめきが聞こえるのでもなく、無音のままで通路を塞ぐようにして膨れあがる集団は、何だか増殖しているように思えて、気味が悪いとしか言い様がなかった。


「ねえ…」

ぼそりと…、口を開いたのは由香ちゃんで。

「結構ボク達、電話で大声出しただろう? なのに自警団が来なかったよね。師匠の丸9つ効果なのかな…。師匠だけ暗黙の了解なら判るけど、これたけの人数の学生入ってきたのに、自警団の姿が見えないし、元々この塾には居ないというのなら、入ってくる学生はこんなに暗い顔はしてないだろうし。何なんだろう?」

「いないはずはないと思うよ。どっかに隠れているかも」

あたしがそう言った時、玲くんは眼鏡を外して目を手で擦りながら、周囲を見渡しては目を細めていた。

「どうしたの、玲くん」

「ん……。なんだかさ、さっきから…景色がぶれて見えるんだよ。ずっとじゃなく、その時だけ動きがコマ送りされているようにこう…ぱっぱと切り替わるような感じで。今なんてさ、あそこの壁に…クオンが引っ掻いたような3本の爪痕のような傷が見えてさ。訝って再度よく見たらそんなものなかったし…君達も見えないだろう?」


「「うん、見えない」」

あたし達は揃って否定すると、そうだよねと玲くんは苦笑する。


「師匠…疲れ目かい?」

「ん……そうなのかな。視力、悪くなった自覚はなかったから…。ダテとはいえ、"異物"をずっとつけているのも悪いかもな…。ちょっと目を休ませよう…」


眼鏡を胸ポケットに入れて、俯いて指で目頭を押さえた時だ。

びくっと玲くんの身体が震えたのは。


そして――。


「どうしたの、玲くん!!?」


顔を上げた玲くんの顔は警戒心が色濃く表れて、鳶色の目は剣呑な光を宿していた。


「瘴気が…強まった。どこからだ?」


周囲をうかがう玲くんの様子に、あたしは思わず身を固くして、背筋を伸したまま冷や汗を掻いた。


「あ……」


それは唐突に。

玲くん同様あたりを見渡していた由香ちゃんが、突如…硝子張りの玄関の向こうを指差して、


「あれは……」


ガタガタ震えだしたんだ。


「どうしたの、由香ちゃん!!?」

「外に何かいるのか!!?」


あたし達の言葉には反応せず、そして由香ちゃんは視線を固定したまま立上がると、突如叫んだんだ。



「榊兄ッッッ!!!!」



玄関の向こう側に拡がる…外界に向けて。