パチパチパチ…。
拍手の音がした。
振り向けば情報屋だった。
「いやあ~。あれらの姿を捉えることが出来るなんて、成長しはりましたなあ~。大抵は"あれ"の速さに攪乱され、正体見極めることも出来ぬまま命取られて、この先は進めないんやわ~」
その"大抵"には入らねえアホハットは、腕組みをして、わざとらしくうんうん唸っていやがる。
こいつは…まあいい。
伊達に看板背負ってないことは判った。
この飄々とした軽薄さが、絶対こいつの第二の人生を損させている。
"あはははは"の氷皇と同じく。
「あれは何だ?」
櫂の問いにアホハットは、意外にすんなり答えた。
「あれは"淘汰の門番(ガーディアン)"と呼ばれるもんや。戦闘レベルで言えば、最下。"淘汰の門番(ガーディアン)"は本能で動くさかい、1体でも酷くやられれば、その他の防御本能が働いて…一目散に退散する。そうなれば終了、入口が開いたことになるんや」
最下…。
あれで最下…。
「何で…異形だ?」
続けてそう聞けば、アホハットは意味ありげに笑った。
「何をもって…異形だというんや」
「は? 足、3本だったろ!!!?」
思わず俺が叫べば。
「なんや、そんなことかいな。それは…普通が2本だという"定義(ルール)"に、ワンワンはんがどっぷり浸かってるから言えることや。
ワンワンはん達が異形と呼ぶ者にしてみれば、2本足で動く皆はん達の方が、異形の存在や」
「ということは…あんなのがうじゃうじゃいるのか?」
恐る恐る聞いてみると、
「いろどりみどり」
アホハットは得意げに言い切った。
緑皇の"緑"とかけているらしいが、引き攣った笑いしか出てこねえ。
櫂も溜息をついている。
小猿は…白目のままで。
「ま、"生きた屍"もある意味…異形の者だがよ、そんなのが沢山いるというのなら、裏世界は地獄の世界か?」
皮肉めいて笑えば、
「ワンワンはん…」
アホハットが口元だけを歪めた。
「本当の地獄というものは、こんな程度ではあらへんで?」
まるで…本当の地獄を見たかのように言うんだ。
「翠はんの…世界でいうならば、《妖魔》が蔓延する地の底。"奈落"。あれに比べれば、全然生やさしい上に、人工的や」
「何だ? お前は、そこに行ったことがあるのか?」
「上から垣間見ただけや。人間であれば、"奈落"に落ちれば1秒で発狂しま。しかも行ってしもうたら、戻ることは出来やしまへん。片道切符や。仮に出来たとしても、人としての機能は…食らい尽されて再起不能やろな。
皮膚なんて…一瞬の内に剥がされて、生きたまま骨にさせられて。だけど…死ぬことは叶わない。それが…本当の"地獄"…」

