「それは僕の願望でもあり、芹霞を守る肩書きだということは判っていても…だけど、正直手放しでは喜べない」
"お試し"を決行したのは僕。
"恋人"を請うたのも僕。
「櫂は今…どうしているんだろうね」
櫂が奪うという表現を使ったということは、芹霞は僕のものだとみなしているのだろう。
だからといって、櫂に…僕と芹霞は恋人として認められているとか、恋人として甘い時間を過ごすことが許されている…と思ってはいけないことくらい、僕も心得ている。
僕には、これからしないといけないことだってある。
「きっと…本気で芹霞を奪いに来るよ、あいつ…。僕、やばいよね…。かといって、"清く正しく美しく"を崩せば…芹霞に泣かれるし。そうなったら、僕…今度こそ櫂に殺されるかもね」
「……。玲様…何だか嬉しそうですね…?」
「嬉しいというか…あいつが本気になると思うと、僕…ぞくぞくとして興奮してしまうんだ。昔からなんだけれど……武者震いっていうのかな」
僕は笑う。
「僕と櫂の関係が何であれ、同じ血は引いているから…共鳴のようなものだと思うんだけれど。
こんなこと、僕が言ってはいけないとは思うけれど…あえて言うのなら、わくわくするんだ。
櫂がどう出るのか。
何をしてくれるのか。
きっとあいつもこの高揚感を、感じているはずだ。
これは…戦場に行こうと決めた男の性(さが)、とでも言うべきものなのかな。それとも好戦的な紫堂の血、なのかな」
「玲様…」
「僕はね、決して櫂に許されたとは思っていない。そこまでおめでたく考えられるような男じゃないよ。
お前だから言うけど――
本当はね、櫂の前からも芹霞の前からも…そしてお前の前からも。綺麗さっぱり姿を消す気でいたんだよ、僕は」
見上げる白い天井が、曇って見える。
「そんな僕を…櫂は、"信じる"という言葉で縛った。
僕が欲しくて仕方がない、だけどもう永遠手に入ることが出来ないと思った"魔法"の言葉で、僕を…縛ったんだ。
戻ることも逃げることも…許さず」
僕は微笑んで桜を見た。
「僕はね、逃げちゃいけない。
強くなった櫂の相手をしたい。
櫂を認めさせたい。
今度こそ、正々堂々と…僕は芹霞を手に入れたいんだ」
「玲様…」

