謝るべきは俺の方だった。
神聖なる緋狭さんの手を煩(わずら)わせ、真紅で穢してしまった…俺のこの不甲斐なさを。
俺が確(しっか)りとしていれば。
俺に強さがあれば。
起きなかった事象に違いないだろう。
そして芹霞に、忘れられることもなかった。
ああ、俺は何度、緋狭さんに救われてきたのか。
そう思えばこそ。
失望だけは決してさせたくないと思う。
片腕を切り落としてまで俺に道を拓いてくれた緋狭さんを、裏切ることだけはしてはならないと思う。
だから――
――坊しかできないことがある。
――案内役を用意した。
――坊、"印"を持ち、裏世界へ行け。
緋狭さんがそう言うのなら。
――お前は、前に進まねばならぬ。
俺は――
――お前は、もっと強くならねばならぬ。
何を後回しにしても、そうしないといけない…そう思ったんだ。
――坊に起きたことは、裏世界に繋がるものと心得よ。
――"生還"を利用せよ。
――案内役の指示に従え。
俺の首筋につけられた、
黒き薔薇の刻印。
――全ては、必然に。
俺の手に浮かび上がる、
赤き薔薇の刻印。
緋狭さんが俺の胸を貫いたことすら、"必然"だというのなら。
緋狭さんが、身体を張ってまで…そう導いたものであるならば。
俺は必然の"証"を抱いて、何がなんでも行かねばならないんだ。
裏世界に。
――裏世界にて、"死んだ"情報を集めよ。
――皆が"生きる"為に。
何もかもが謎のまま、再会は終焉を迎えた。
景色が…薄らいできたんだ。
――帰るのは坊だけだ。私は、"特殊な事情"にて、此処から出られぬ。それに今、肉体に戻れた処で…少々厄介なことになるしな。まあ…自由気儘でいられる時間にも制限はあるが。
――ああ、もう時間だ。また…あの"ふさふさ"に囚われに戻るか。そういう…"約束"だから仕方が無い。
――時間を気にするなど…ふふふ、まるでシンデレラの気分だな。
どこまでも底抜けに明るく、心配など何もないというように。
だけど俺は、それが妙に気になって。
――ふ…。私を助ける? では…気長に待っていよう。
簡単にはいかないということを暗喩されたように思え、
――私のことは気にせずともよい。すべきことをしろ。それだけだ。
達観しているような、動じないその表情が…緋狭さんが背負う事態が、逼迫(ひっぱく)しているように思えたんだ。

