抱くその櫂の手も、僅かに震えていて。
その震えから、俺も感じ取る。
櫂も同じ心だということ。
同じ激情を心に抱いているということ。
8年前――
緋狭姉は、櫂の挽回のチャンスを作る為に…片腕を自ら切り落とした。
そして紅皇職を退いた。
櫂は…――
緋狭姉のおかげで、芹霞を救えた。
緋狭姉のおかげで、ここまで強くなった。
櫂の人生をを変えたのは、緋狭姉だ。
櫂は、緋狭姉を慕っている。
その櫂が、緋狭姉を"非情"扱いされて何とも思わねえはずはねえんだ。
潔く、そして慈悲深い紅皇。
最強といわれた唯一の女性。
――煌。坊を守る護衛役につけ。
そして俺達を巡り合わせたのも緋狭姉だ。
俺達の心の中は、赤の賛歌に満ちている。
俺達は…緋狭姉を、紅皇を…敬愛しているんだ。
だけど。
「煌、此処は…押さえろ」
その櫂がそういうのなら。
俺は櫂の為に鎮めなきゃなんねえよな。
判る。
腐っても…アホハットは五皇だった男だ。
しかも、緋狭姉が"裏世界"の案内に託した男だ。
俺達は…どんなことでも、この男に追従しないといけねえ。
それは、俺だって判るんだ。
だけど…俺は短気で。
堪え性がねえ。
そう簡単に、一度火がついた怒りは――
「おしっこ」
頭上で声がした。
それは突然で。
何を言われたのか判らなかった。

