「五皇の履行…それは氷皇の言葉にもあった。何を履行している?」
「…約束だ」
「約束?」
「五皇には…様々な権力を与えられている。
しかし――
権力という餌で、飼われているだけだ」
アホハットは…何を言い出したのだろう。
その顔は能面のように無表情で、思わずぞくりとする。
今までの…あの軽薄な空気は何処にもねえんだ。
「五皇は――
ゴミ以下に扱われた存在だ」
口から紡がれた言葉は、信じがたいものだった。
ゴミ以下…?
俺の脳裏には、己の色を主張した外套を翻し、堂々たる風情で東京を闊歩する…氷皇や、緋狭姉の姿を思い出す。
ただ…死んだ白皇の正式な五皇姿はみてねえし、黒皇たる久涅はチンピラ紛いの派手好きで、元々の性格が最悪だから…その2人の五皇の実体は判らねえけれど。
ゴミ以下とは思えねえ。
何より、元老院が五皇に権力を与えているんだから。
「なあ…ただの元老院直属の部下にしか過ぎなかった五皇が1人の氷皇は、元老院への格上げが承認されてんだぞ? ゴミなら…そんな事態はありえねえだろ」
俺がそう言うと、アホハットは…嘲るような嗤いを見せた。
「氷皇は…履行を可能にする為に動いている。"孤高"で」
また、"履行"だ。
「……。それは、緋狭さんの背中の印と関係があるのか?」
櫂が言った。
「ああ。五皇は皆、背中に"黄の印"を持つ。約束を…忘れぬように。
その枷がある為に五皇は縛られる。
だが――
その枷がなければ、五皇はこの世にはいない」
"この世にはいない"
――!!!!
「この世って…まさか既に死んでいるとか!!?」
「違う」
否定してくれて、安心した。
氷皇はどうでもいいけれど、緋狭姉が…妹共々死んでいたなんて、洒落にもなんねえ。
「約束によって、五皇は"生かされて"いるという意味だ。時期が来たんだ。五皇が…約束を守り、履行しないといけない時期が」
「お前が…緑皇を降りたというのも、履行なのか?」
アホハットは肯定するように、含んだ笑いを見せた。
「誰との…約束だ?」
櫂の問いに、アホハットは言った。
「黄」
――と。

