「…今はしないよ」
そして口付けたのは――
「心臓が…落ち着いて、君が女として僕を欲してくれたら…その時に頂戴ね?」
あたしの左胸に大きく残る…傷。
熱い柔らかなモノが、そこに宛てられた。
「玲くん…そこは…や…」
醜い手術痕残るその部分に、玲くんは唇をあてて動かない。
精神的な悍(おぞま)しさと、肉体的な甘美さと。
その感触があたしの許容範囲を超えていて、思わずのけぞり遠ざかろうとしたあたしだったけれど、玲くんはしがみつくように背中に両手を回すと、より一層密着してくる。
「思い出すね…入院。あの時、世界は…僕達だけのものだった」
どこか懐かしむような口調を聞きながら、
「これは…僕だけが知る、僕だけの聖域だ。他には触らせない。もう…誰にも見せやしない」
あたしは得も言えぬ感覚に身を捩るばかりで。
「あの時…我慢しなければ、何か変わっていたのかな…」
そんな哀しげな声が聞こえたと同時に…胸が熱くなってきた。
玲くんの唇から…何かが流れ込んでいる気がする。
これは…。
「僕だって…君を守れるよ。ネコに出来て僕に出来ないことはない。だから僕に君を守らせて…?」
ネコ…?
「回復結界…唇から局所的に発動出来るようになってよかったな…ふふふ」
結界ですと!!!?
まあ…そりゃあ、あれです。
一度は玲くんとその…覚悟を決めたとはいえ、真似事…みたいなこの現状は耐え難いのです、はい。
驚愕と恐怖と羞恥、それから気持ちよさに…意識が遠のきそうだ。
それに鼻が…。
「………。それから、僕を赤く染めないでね。染められたら…一緒にお風呂に入って洗って貰うから。僕の身体の隅々までね。あ、僕も…王様ネコもご満悦だった指で、色々なトコロ丁寧に洗って上げる」
………。
やばい。
そっち想像した方が鼻が…。
煩悩滅殺!!!!
我慢出来るはずだ。
限界突破!!!
「ん……安心する。芹霞から心臓の音が聞こえると。凄く安心して…。……」
「玲くん…?」
お返事がない。
代わりに寝息が聞こえてきた。

