元気がない。
覇気がない。
「どうしたの? 何かあった? 先刻泣いてたのと関係ある?」
身体を屈んで芹霞の目線に合わせ、そう尋ねれば。
「何もないよ?」
また微笑んだ。
いまだクオンは逆さ吊り。
クチュン。
クチュン。
やっぱり何か変だ。
「………」
「どうしたの、玲くん」
僕はぽんぽんと頬を叩いてみた。
「ん? なあに?」
気づいていないのか。
それともどうでもいいのか。
その時、漂ってきたのは…
「シトラスの…香水?」
これをつけていたのは…櫂。
芹霞からプレゼントされたからと好んでつけていた香水。
間違いない。
同じ香りが漂う。
「芹霞…その匂いどうしたの?」
まさか、櫂がいるわけでもないだろうし。
それとも…本当に櫂?
「え? 何か匂うの? あたし全然感じないよ」
服をクンクン嗅いで首を傾げる様は偽りはなさそうだけれど。
逆にその嗅覚がないというのは…
櫂に関する記憶だからなのか。
僕は…そこまで櫂を拒む芹霞に、僕がしでかした重大さを改めて感じる。
だけど今は。
「どうしてその香りがつくの?」
そっちの方が僕には気になって。
芹霞の身体から匂うんだ。
こうした匂いは…抱き合わないとつかない。
クオンからは匂いはしないのに。
「由香ちゃん、体育館から芹霞と真っ直ぐ帰ってきた?」
すると由香ちゃんは八の字眉で、首を横に振って。
「百合絵さんとボクは真っ直ぐ帰ってきたけど…神崎は暫く見ていたいって、扉のトコからこっそり覗いていたはずだよ?」
居たんだ、芹霞は。
居たの、僕が気づかなかったなんて。
あだけど、途中朱貴が何度かあの扉から出入りしていたはずで。
その時は芹霞はいなかったということ?
「由香ちゃん、芹霞はいつ戻って来たの?」
「………。ついさっき」
朱貴が出入りし始めたのは、稽古が終わる30分ぐらい前。
だったら30分…芹霞は何処に居たというのだろう?
その間に…シトラスの香りがついたのか?
どうしてもこの匂いが気になって仕方が無いんだ。
僕や朱貴以外の男の影を感じて、落ち着かない。
何が…あったんだ、芹霞に。
「芹霞、何処で何をしていたの?」
極力、優しく言ってみた。
「怒らないから…本当のことを言って? 誰かに、会ったの?」
「………。ううん?」
だけど一瞬、焦ったような表情が見えたのを僕は見逃さない。
何で僕に隠す?
「芹霞、誰!!?」
僕は声を荒げてしまった。

