シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



元気がない。

覇気がない。


「どうしたの? 何かあった? 先刻泣いてたのと関係ある?」


身体を屈んで芹霞の目線に合わせ、そう尋ねれば。


「何もないよ?」


また微笑んだ。


いまだクオンは逆さ吊り。


クチュン。

クチュン。


やっぱり何か変だ。



「………」

「どうしたの、玲くん」


僕はぽんぽんと頬を叩いてみた。


「ん? なあに?」


気づいていないのか。

それともどうでもいいのか。



その時、漂ってきたのは…


「シトラスの…香水?」


これをつけていたのは…櫂。

芹霞からプレゼントされたからと好んでつけていた香水。


間違いない。

同じ香りが漂う。



「芹霞…その匂いどうしたの?」



まさか、櫂がいるわけでもないだろうし。

それとも…本当に櫂?


「え? 何か匂うの? あたし全然感じないよ」


服をクンクン嗅いで首を傾げる様は偽りはなさそうだけれど。


逆にその嗅覚がないというのは…

櫂に関する記憶だからなのか。


僕は…そこまで櫂を拒む芹霞に、僕がしでかした重大さを改めて感じる。


だけど今は。


「どうしてその香りがつくの?」


そっちの方が僕には気になって。


芹霞の身体から匂うんだ。

こうした匂いは…抱き合わないとつかない。


クオンからは匂いはしないのに。


「由香ちゃん、体育館から芹霞と真っ直ぐ帰ってきた?」


すると由香ちゃんは八の字眉で、首を横に振って。


「百合絵さんとボクは真っ直ぐ帰ってきたけど…神崎は暫く見ていたいって、扉のトコからこっそり覗いていたはずだよ?」


居たんだ、芹霞は。

居たの、僕が気づかなかったなんて。


あだけど、途中朱貴が何度かあの扉から出入りしていたはずで。

その時は芹霞はいなかったということ?


「由香ちゃん、芹霞はいつ戻って来たの?」


「………。ついさっき」


朱貴が出入りし始めたのは、稽古が終わる30分ぐらい前。

だったら30分…芹霞は何処に居たというのだろう?


その間に…シトラスの香りがついたのか?


どうしてもこの匂いが気になって仕方が無いんだ。

僕や朱貴以外の男の影を感じて、落ち着かない。


何が…あったんだ、芹霞に。


「芹霞、何処で何をしていたの?」


極力、優しく言ってみた。


「怒らないから…本当のことを言って? 誰かに、会ったの?」

「………。ううん?」


だけど一瞬、焦ったような表情が見えたのを僕は見逃さない。


何で僕に隠す?


「芹霞、誰!!?」


僕は声を荒げてしまった。