シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



サンダーボルトアタック……。


何度か口で反芻してみた。

抽象的な名前より、単純明快でいいかもしれない。


「それにしようか」


僕はにっこりと笑う。


「早く芹霞にお披露目したいな!! 芹霞きっとびっくりするぞ~。あ、玲。それを準備室に運んで最後だろ? あたしがしとくから、お前は少しでも早く芹霞の元に行ってや……っくしょん!!」


汗が引いて身体が冷たくなってしまったのか。

僕でさえうすら寒く感じて服を着たんだ。


「紫茉ちゃん、ここは僕が片付けるから、紫茉ちゃんは早くシャワーに。風邪引いたら…」

「いやいいよ、あとはこれだけ…っくしょん!!」


その時、宙に赤色が飛び――

紫茉ちゃんの身体を覆ったんだ。


それは…。


「紅皇の…外套?」


飛んで来た方向を見れば、いつの間にか体育館に戻って来た朱貴で…どうやら紫茉ちゃんに着せる為に投げたらしい。

紫茉ちゃんが寒がると思って…取りに戻っていたのだろうか。

体育館に来た時には既に白衣姿で、赤い外套はなかったから。


………。

紫茉ちゃんの為なら、五皇の外套も簡単に譲ってしまう朱貴。


誰もが羨む五皇の職。

それは紫堂や皇城の手すら、抑える力があるというのに。


朱貴にとっては、権威などどうでもいいんだろう。

紫茉ちゃん以上に固執するものはないんだろう。

この切ないまでに愛が滲む顔を見ていれば、どれ程朱貴が紫茉ちゃんを求めているのか判るから。


無償の愛。

見返りなど何も求めず、一方的に尽くす献身的な愛。

これだけ強くて美しい男が、求めるのは少女1人。


その少女は気づかない。

どれだけ想われているかなど。


ああ…切なすぎてやるせないよ。

欲しくて欲しくて仕方が無いという顔をしているのに、欲しいという行動を起こさない朱貴は、精神の狂いは起こさないのだろうか。

いつもいつも…芹霞に、僕が狂いそうな程にもどかしさを抱えるのは、此の身に流れる狂いの血故のことなのか。


尚更に感じる。

僕は何て不安定で脆い存在であるかを。


「着ろ」

「必要ない。お前が着ろよ」


目の前では赤い外套が、2人の間を行ったり来たりの平行線。

いつしか朱貴の必殺"ぐりぐり"が出始め、紫茉ちゃんの叫びが響く。


愛だと知らねば…ただの暴虐にしか見えないけれど。

せめて真実の愛に繋がる2人の時間を作って上げたいと思う僕は、2人の背中に向けて一礼し、そっと体育館を出た。