その時、ドアが開いて…百合絵さんが入ってきた。
大きな炊飯器を抱えている。
「芹霞嬢ちゃま、動けるようになってよかったです。ずごっ」
百合絵さん…意外に涙もろい。
「百合絵さん、何であたし"嬢ちゃま"?」
あたしは庶民で、セレブじゃないし。
「玲坊ちゃまの婚約者は…嬢ちゃまです」
「こ、ここ婚約者!!!?」
声がひっくり返ってしまった。
「はい。玲坊ちゃま…テレビで宣言されたの、私も見ました」
堂々と百合絵さんは言うけれど。
「あ、あれは…成り行きというか、無効というか…」
「坊ちゃまと結婚、したくないんですか!!?」
百合絵さんの目が、くわっと見開いて…
「け、けけけ結婚なんて…」
その迫力にたじろいで、1歩後退すると。
がり。
「痛っ!!」
見れば、首元のクオンが、あたしの病巣に爪をたてていた。
「フーーッッ!!!」
何やら怒っているようだ。
「芹霞嬢ちゃま、玲坊ちゃまと結婚されないんですか!!?」
再び百合絵さんの、迫力攻撃。
がり。
「痛いっ!!」
続けてクオンの、病巣攻撃。
「フーーッッ!!!」
突き刺すような鋭い紅紫色の瞳。
一体何を興奮しているんだ。
百合絵さんの迫力が怖いのだろうか。
「芹霞嬢ちゃま…、玲坊ちゃまを旦那様にしたくないんですか!!」
諦めない百合絵さん。
スルーする気もないらしい。
「ゆ、百合絵さん…あたし達まだ付き合ったばっかだから…。気が早いよ…」
それが正直な処。
恋愛を経て結婚で収まるのは、確かに理想だろう。
だけど付き合って1日足らずして、更には元よりあたしにとって、旦那様より奥様のイメージ強い玲くんだから。
「現実問題として考える程に、心が追いついていないよ。
玲くんは好きだけれど…まだ始まったばかりだし」
そうやんわりと拒否すると、百合絵さんはあまりにも哀しそうな顔をしたから、
「時間が経てば…そ、そうなったらいいね…? まあこればかりは、今は何とも言えないや」
と話を合わせてみると。
バシバシッ。
病巣に何度か猫パンチを食らわせて、クオンは大人しくなった。
だから何だ、お前は…。
八つ当たりしてないか、あたしに。
「でも玲坊ちゃまは、直ぐにでも…」
百合絵さんは、項垂れてしょんぼりとしたようだ。
首の肉につかえて、少ししか動いていないようだけれど。
「玲くんだってそこまでは…あれ、玲くんは?」
にっこりほっこり玲くんの姿が見えない。
ちなみに紫茉ちゃんの姿もない。

