**とお鍋の中を覗こうとしたら、突然後ろから現われたイチルちゃんが、中身を見せまいとあたしとの間に入って、両手を広げてお鍋を見せないようにした。


「これはね、秘密のものなの」


机の上に…汚い色をしたクサがあった。

だけどね…その周りには、どす黒い色の液体が散った跡があって、鉄みたいな匂いもして…、鼻を押さえているのにあまりに臭すぎたんだ。

涙まで出て来ちゃった。


「まだ"これ"は成功してないんだ。だからお勉強中。こんなものより、こっちに来てよ」


後ろ髪引かれるように、お鍋を最後にちらりと見たら…ごとりと動き、何か白い足みたいのが浮いてきて。

あたしは驚いてイチルちゃんの後を追いかけた。




今度は**が1つのお部屋を気にしだした。


「どうしたの、**?」

「ん…何かね、ピカピカ光ってるんだ…」


あたしと**は、先に歩くイチルちゃんに何も言わずに、またもやふらりと部屋に入ってしまった。

そこには上に大きな棚があって、透明な丸い硝子の瓶みたいなものが沢山並んでいて、その中にきらきら金色に光るものがあったんだ。


「芹霞ちゃん、何だろう、あれ…」

「何だろう…高い処にあって、背伸びしても手が届かない…」


**と目を凝らして見ていれば、いつの間にかイチルちゃんが横に居て。


「イチルちゃん。あれ、なあに?」


そう聞いたら、イチルちゃんはにこりと笑った。


「芹霞ちゃん、"錬金術"って知ってる?」

「レンキンジュツ…? 判らない、なあにそれ」


「何でも金に変えてしまう魔法のことだよ」

「金? ああ、イチルちゃん、黄色が大好きだから…その色にしたいの?」


「私が好きなのは、金じゃなく黄色。金なんて、ただ光ってるだけで嫌い」


口を尖らせたイチルちゃんは、そして突然何かを思い出したかのように、静かに笑いだした。


「だけどね、金を上げると…皆が言うこと聞くの。金は凄いね、黄色には負けるけれど」


その笑い顔がぞっとした。

魔法使いゆんゆんの敵、デビル大魔王みたいで。

**は怯えて、あたしの服をぎゅっと掴んでいた。


イチルちゃんに促されて、また歩いた。

何て広い洞窟なんだろう。


そして、イチルちゃんが案内したのは――


「ん、此処だよ。此処で魔法を見せて上げる」


酸っぱいような饐えた匂いが立ちこめる部屋。


「うっ…臭い…」


それだけではなく…魚やさんにいるような生臭さも感じて、吐き気がしてきた。