シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



そんな時――

「此処での1秒が、実際の時間より長ければ…秒刻みに動いている俺達は、もっと素早く動けているってことかなあ。時間が狂っているのは俺達に有利なのかも。あ、けど実際の時間は…」


素直に受け入れている翠の言葉に、俺は思ったんだ。


"狂っている"

…ああ、だからか。


「だから…不思議の国のアリスなのか」


狂った…夢の世界。

そしておかしな格好の、子供の姿の俺達。


何処までもこの世界は、キーワードが散りばめられている。


「素直に…受けいれろということか」

「え?」


大人になって色々勘ぐれるようになれば、余計なことをあれこれ考えすぎる。

猜疑心は留まる所を知らないから。


それは…狂い以前の無駄な時間だ。


考えすぎないようにするにはどうすべきか。


実証の為に動くか、一切を拒絶するか、全てを受け入れるか。


狂っているかどうか確認するのは馬鹿らしい。

狂っているのは判っていること。

それを再確認しても意味がない。

問題はそこじゃない。


俺は、原書でチェシャ猫とアリスがやり取りしていた会話を思い出す。


「チェシャ猫はアリスに、自分も含めて"不思議の国"の住人誰もが気狂(ちが)いだと言った。

アリスは自分だけは違うと言い張るけれど、チェシャ猫は否定する。アリスもまた、気狂いだと。

何でそうだと判るのかと尋ねるアリスに、猫は答える。


"気狂いに決まっている。でなきゃ、こんな処に来るはずがない"」


「へ?」


成る程。


「狂っているのは…この世界。だからこそ、そこに居る俺達の時間は狂う。

何が正しくて何が狂っているのかなど関係ない。この世界においては、全ては定義(ルール)。狂った時間もまた、受け入れるのが定義(ルール)。杓子定規で物事を考えるなということだ。

時間に追われるだけではなく、此処はありがたく…狂った時間を"利用"させて貰うぞ、翠」


「お、おう?」


とにかく走り、行き着いたテトリス台。


♪チャーチャチャチャーチャチャチャーチャチャチャーチャチャ


直前の煌との電話で、12回連鎖に成功したことは判っている。


思った以上の活躍を見せる凸凹コンビ。


連絡を密にと言ったのは俺だけれど、煌は本当に頻繁に電話をくれるから。

着ゴエに神経過敏になりすぎている俺は、今では"ワンワン"が聞こえたら、即時に電話を取れるようになった。