そんな時――
「此処での1秒が、実際の時間より長ければ…秒刻みに動いている俺達は、もっと素早く動けているってことかなあ。時間が狂っているのは俺達に有利なのかも。あ、けど実際の時間は…」
素直に受け入れている翠の言葉に、俺は思ったんだ。
"狂っている"
…ああ、だからか。
「だから…不思議の国のアリスなのか」
狂った…夢の世界。
そしておかしな格好の、子供の姿の俺達。
何処までもこの世界は、キーワードが散りばめられている。
「素直に…受けいれろということか」
「え?」
大人になって色々勘ぐれるようになれば、余計なことをあれこれ考えすぎる。
猜疑心は留まる所を知らないから。
それは…狂い以前の無駄な時間だ。
考えすぎないようにするにはどうすべきか。
実証の為に動くか、一切を拒絶するか、全てを受け入れるか。
狂っているかどうか確認するのは馬鹿らしい。
狂っているのは判っていること。
それを再確認しても意味がない。
問題はそこじゃない。
俺は、原書でチェシャ猫とアリスがやり取りしていた会話を思い出す。
「チェシャ猫はアリスに、自分も含めて"不思議の国"の住人誰もが気狂(ちが)いだと言った。
アリスは自分だけは違うと言い張るけれど、チェシャ猫は否定する。アリスもまた、気狂いだと。
何でそうだと判るのかと尋ねるアリスに、猫は答える。
"気狂いに決まっている。でなきゃ、こんな処に来るはずがない"」
「へ?」
成る程。
「狂っているのは…この世界。だからこそ、そこに居る俺達の時間は狂う。
何が正しくて何が狂っているのかなど関係ない。この世界においては、全ては定義(ルール)。狂った時間もまた、受け入れるのが定義(ルール)。杓子定規で物事を考えるなということだ。
時間に追われるだけではなく、此処はありがたく…狂った時間を"利用"させて貰うぞ、翠」
「お、おう?」
とにかく走り、行き着いたテトリス台。
♪チャーチャチャチャーチャチャチャーチャチャチャーチャチャ
直前の煌との電話で、12回連鎖に成功したことは判っている。
思った以上の活躍を見せる凸凹コンビ。
連絡を密にと言ったのは俺だけれど、煌は本当に頻繁に電話をくれるから。
着ゴエに神経過敏になりすぎている俺は、今では"ワンワン"が聞こえたら、即時に電話を取れるようになった。

